第21話 一本の大樹
央都【舞鶴】。ギルド本部、庭内。
誰もいない広場の中を草を掻き分け進む女の姿が見える。
屋内であるはずのそこにはおびただしいほどの草木が生え、高い天井にも木の枝や蔦が伸びている。
上からは穏やかな外灯石の光が辺りに注がれていた。
どこから入り込んだのか、小さな獣や鳥の姿まで見える。
木の幹にもたれて一人の男が座っていた。
そのすぐそばまで来ると、女はそこで腰を落とし、話しかけた。
「松葉さま、井端です。仰せのとおり、あちらは三段まで現在抑えられております」
呼び掛けられた男は目を瞑り、下を向いている。眠っているようにも見える。肩には時折、小鳥が止まり、少しするとまた飛んでいく。
男が静かに呼び掛けに答える。
「――子はどうなった」
一瞬戸惑い、女がそれに対する答えを言う。
「あの少年ですか? 呂鈍さまの【鶇】を受けて帰路に着きました。もう届いているでしょう」
あの後、荒木は限界まで上げた気燃で一晩で舞鶴の検問所まで来たが、そこで意識を失い、舞鶴のギルド本部で処置を施された。
女はそのまま月影のギルド内で悪魔が三体壊されたことを伝えた。
「月影の【九番】もようやく破壊されました。総隊長の加勢さまと他数名の者が宿魔を失ったようですが、保管庫の悪魔も衰微して消えたようです」
悪魔の本体は常に人の感情に影響を受ける。
【九番】と呼ばれる特殊なスキルを持つ悪魔が消えたことで、ギルドには大きな希望と安らぎがもたらされた。それが将棋倒しのように端から悪魔たちを消していった。
「……来須隊長には俺から伝えておく。お前は行っていいぞ」
そう言うと男はまた目を閉じ、今度は遠くを向いたまま黙り込んでしまった。
それを見て女は立ち上がり、静かにその場を去った。
ここ舞鶴の中心部には、いつからか一本の大樹が存在するようになった。
天へ向かってまっすぐに伸びるその姿には多くのものが後に続き、同じように上へと向かっていくようになった。
総隊長、来須足立。
世界の中心。秩序。どのような罪人も、彼の立ち姿を見ただけで、次の日には土を耕しているという。
どこからやって来たのか、出生は誰も知らない。
悪魔により窮地に追い詰められていた央都に、その男はある日突然やってきた。
来須は動かない。
ただそこにいるだけで、目の前の悪魔をいくつも壊していった。
――人の心を反映するだけだ。
悪魔は、ひとつのメッセージなのだ。
来須は言う。
人間の本当の敵は、いつだって人間なのだと。




