第20話 永遠の想い
悪魔を破壊した。
十二月十一日。その午前。
奇跡的に死者は出さなかった。
穏やかな外灯石の光に包まれながら、浅田はその場で座り込み、安堵の息をもらした。
また助けられてしまったようだ――。
緒虎の熱気を静めながら辺りを見ると、みな疲れきった様子で床に倒れ込んでいる。
花筏が浦丸を介抱している。その奥で桐生が床に寝ていた。気を失ったようだ。
とりあえずみんな無事なようだ。
目の前には崩れた悪魔の残骸が残っている。
その真ん中に、あのときと同じ、紫色に光る石が落ちていた。
浅田は誰にも悟られないようにしてその石を拾った。
そして翌日。
荒木漆黒が寂箱をひとつ抱えて月影に戻った頃には、みな復旧の作業に当たり始めていた。
町の立て直しにもたくさんの隊士達が出払っているその中で、一番隊の三代はギルド本部の正面門でちょうど戻ってきた荒木を出迎えた。
「遅くなった、悪い……」
「いいえ、ありがとう。疲れたでしょう」
「本当に、終わったのか」
「ええ、終わったけど……?」
「舞鶴の本部に呼ばれたんだ。急ぐ必要はないと言われた。でも心配だったから飛ばしたけど、何があった?」
「ゆっくり話すわ。あなたも疲れたでしょうから」
あの後、夕方過ぎに本部に帰還した夏目によりその背景が明らかになった。
辺境の冒険者によって全てが解決された。
しかし、それは本部内で秘匿とされた。本人も来訪を拒んだからだ。
悪魔を殺すための最後の気燃――。
昔から、それには必ず色が付くことが知られている。
青みを帯びた気燃を放つものは過去、月影に一人だけ存在していた。
しかし、その人物はもう今はいない。
まるであの頃がよみがえったみたいだ――。
それを知る者は、あの減魔の空間にそのときの風景を思い出し、誰もが懐かしさを感じさせられた。
当時の月影は舞鶴と並ぶ無敗の強国ともされていた。
しかしその人物は自らこの国を去った。
もう十年以上も前のことになる。
崩壊した町の片隅で、浅田は一人、その家屋を訪れていた。
崩れた残骸の中に木の表札が落ちているのが見えた。
日塚実弥――。
どうやら住人の名前のようだ。
木造の平屋とおぼしきその家屋は、悪魔のスキルによって完全に崩れていたが、持ち主はすでにおらず、悪魔による陰性の気流が払われた後も誰も立ち入ることはなかった。
その残骸で何かを見つけた。桐の箱のようだ。
中を見ると綺麗な女物の浴衣が折り畳まれて入っていた。
悪魔のスキルは四角い物体を破壊するものだ。
後の調査でそれは明らかになる。
しかし、浅田はまだこのとき、それを知らない。
スキルがどういうものか知った後も、浅田の記憶にこの桐の箱が思い出され、それと結び付くことはなかった。
箱のとなりにはいくつかの玩具があった。
子どもというよりは、赤子向けの玩具のように見えた。
その中に小さな太鼓も落ちていた。
あの悪魔のものとよく似ている。
あのとき、微かに見えた景色を頼りにこの家にたどり着いた。
太鼓はここにあったものでおそらく間違いない。
持ち主の名前と、あの風景に映った男。
しかし、浅田にはそれ以上のことは結局、何もわからなかった。
崩れた残骸は、ただ静かに冬の景色の中に一枚の絵のように映ったままだった。




