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夜想人  作者: 小作
第二章 冒険者の町
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第19話 悪魔滅殺

 一本の道が続いている。

 それに沿うようにして浮かぶ灯火。


 その先に見える太鼓。

 悪魔を殺すための備えだった。


 目の前に気燃を撃ち込み、追撃により完全に破壊する【弐行】。


 暗がりの中、浅田は殺意を切っ先に乗せた。

 黒い壁を貫いた。悪魔の守りだ。

 浅田にだけは、今そこに小さな鼓が残されているのが見える。


 細胞核――。


 これを壊せば終わる。


 しかし、黒檀の切っ先をその先に感じられる(しるべ)にどうしても合わせることができない。

 あと少しで宿魔を失うというほど引き上げた気燃。

 それを前方で何かが阻んでいる。


 お前ではこの先を歩くことはできない――。


 遥か先、太鼓の少し手前で鍬が刺さっているのが見えた。

 浦丸の力はあそこまで届いた。

 しかし、浅田には一撃を入れたあとの追撃を放つことができなかった。


 私では歩み出すこともできないようだ――。



 やがて灯が消えた。


 浅田は黒檀を握る手を放し、地面を見た。

 暗い床が見える。


 次の瞬間、加勢の縛りがなくなり、床に落ちた悪魔の箱がわずかに動いた。

 まるで最後の情けと言わんばかりにそこで力を集め始めた。一撃で終わらせてくるようだ。


 これが悪魔か――。


 どうやら負けのようだ。

 全員がそれを悟った。



「それでいいです」


 花筏が言う。

 殺意を放てばどこまで崩壊が及ぶかわからない。


 最後に辺りを見渡し、笑って言った。


「ご苦労さま、最後はわたしが守ります」


 全てを使った八面裁ちを減魔内に展開させた。

 【丹生都姫(におつき)】の最後の力だった。


「ありがとう、みんな」


 隊士たちが持つ爆圧石はほとんどが壊れていた。

 彼らも最後まで戦った。

 もう誰もこれ以上、力を出すことはできない。


 悪魔が蓋を開ける。


 黒い赤ん坊のようなものがそこから出てきた。

 地に落ちて、床を這い、嗤う。


 どうやら爆発するようだ。


 床に倒れてそれを見る者。うつむきながら涙を流す者。悔しがる者。

 浅田も緒虎を防御に回した。

 桐生は出血が多いようだ。腹を抑え、意識を何とか保とうとしている。


 恐怖はない。

 全てを懸けて届かないものに、私たちは逆らえない。

 それが死を答えとするのなら、私たちもそれを受け入れるだけだ。


 場が暗闇に包まれた。

 その後、少し遠くで音が鳴る。



 悪魔が爆発した。


 そのとき――。





“大地を――”


 遠くから、声が届いた。


“大地をゆけば、さらに続く世界が見える”


 部屋の片隅で小さな灯がともった。



 ゴオ――


 激しい爆風を丹生都姫の残した防壁が全て抑え込んでいた。


 威力を失った風が部屋に吹き荒れる。

 やがてそれが静まると微かな明かりが浮かび上がってきた。



 丹生都姫はすでに死んでいる。

 何か別なものが防壁を限界まで上げたようだ。


 部屋の隅で水色に揺らめく火。

 それが辺りに明かりをつくり始めた。

 全員がそれを見る。


 爆圧石だ――。


 小さな石が気燃を発している。

 花筏が近づき、床に落ちたそれを取る。


 これは、確か夏目と繋がっている石だったはずだ。

 しかし、これほどの気燃を夏目がつくれるはずはない。


 花筏は両の手のひらに乗せてそれを取ろうとした。

 しかし、宿っている気燃を受け取ることができない。


 誰か別な者が気燃を送り込んでいるようだ。

 一体、誰が――?

 そのとき。



「花筏……」


 浅田がそれに近づき、座り込んでいる花筏に向けて手を差し出した。


「俺がやる」


 そう言うと、石を受け取り、床に落とした黒檀を拾い上げた。



 ――――ズッ


 黒檀を握り、前方を見据える。

 浅田を中心に減魔に青い炎が上がった。


 やがて地面から全てを覆すほどの風が湧き上がってきた。


 全員の回復力が限界にまで上がった。

 倒れていた者は意識を取り戻し、辺りを見渡した。


 殺伐としていた減魔内がまるで幻想的な水色の庭園のようになっていた。

 淡い水色の炎が幾重にも部屋にかさなり、燃石のような暖かさまで感じられた。

 壁には色んな角度から照らされた光により、様々なかたちの影が伸びていた。

 それがゆらゆらと火に合わせて揺れている。



 浅田の目の前には再度、あの暗がりの道が延びていた。

 両脇にいくつも並ぶ行灯――。


 さまたげるようにしてあった加勢の鍬はいつの間にか消えていた。

 その先に居座る太鼓が見える。


 浅田はただ、自分の目の前に向かう後ろからのその風に従った。

 遠くから歌が聞こえる――。



 夕闇に 溶け込むだけで 華やいだ

 あの坂道を 駆け行く君へ



 風の中で、太鼓を抱く人の姿がみえた。



 ズッ――



 黒い切っ先が太鼓を貫いた。


 静かに壊れ、床の上に炭のようになって崩れ落ちていった。



 悪魔滅殺――。



 その少しのあと、部屋を覆っていた水色の火は消え、代わりに橙の薄明かりが外灯石にゆっくりと灯り始めた。

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