第18話 白の宿魔
オオオオオオ――
外灯石が消えた。
しかし微かに辺りが見渡せる。
真っ暗のはずの広間に薄明かりが灯っている。
「ぐ、う、うぐっ」
腹を抑えて床に膝をつく桐生が正面の薄明かりを何とか見上げる。
「お、お前……」
そこには異形の獣を携えた浅田が背を向けて立っていた。
右手に黒檀。手の先から血が滴っている。
ぼんやりと発光した気燃を纏っている。
意識のあるものが全員それを見上げる。
時刻は二日経ち、明け方になっていた。
これまで何とか浅田と桐生の連携で六番の増殖を抑え込んでいたが、とうとう加勢の気燃に限界が来たようだ。
後ろ姿に違和感を感じた花筏は加勢の背に手をやると心音と呼吸が微弱になっていた。
加勢は鍬を床についたまま、意識を失っていたのだった。
数時間を過ぎた辺りで六番は人型をやめた。
人間の形は人間が戦い慣れている。
六番は四角い箱形に姿を変えた。
それが六番にとって最も力の集まる形だった。
【凶体】と呼ばれるこの状態に悪魔がなったとき、中に細胞核が生まれる。
それを破壊することで初めて悪魔滅殺となる。
六番がその箱の蓋を開けたとき、黒い影が走った。
最初の影は、誰にも当たらずに壁に突き刺さった。
減魔の壁は特殊な石でつくられている。それが割れて崩れた。
中に黒い手がめり込んでいた。
とても小さな、それは赤ん坊の手のように見えた。
石の中で蠢いたあと、それは腐って死んだ。
悪魔の弩弓――。
浅田が加勢と花筏をかばい、桐生が他の隊士たちをかばった。
加勢が爆圧石を受け取らなくなってから、隊士たちは花筏に気燃を集めるようになった。
花筏の宿魔は瀕死の状態だった。
弩弓はその後、一時間に一発放たれた。
しかし何回かだけ、数分の間で放たれたこともあった。
気が抜けない。
六番が放たれた以上、このあと何をしてくるかわからない。
減魔は人間に有利で悪魔に不利となる、ありとあらゆる措置が施されている。だから戦力は少しでもここに集め対処した方がいい。
意識を失った隊士たちも何人かいたが、外には出せなかった。回復速度もこの部屋が一番早い。
時間が経つに連れて弩弓の間隔は短くなった。
どうやら、加勢の力に影響を受けているようだった。
数分の間隔は加勢が一瞬、集中力が途切れた瞬間のようだった。
右門の気燃が届くまで、あと数時間。
そのとき、ついに壁が破られた。
叩き落とす手が一瞬遅く、弩弓が桐生の腹にめり込んでいた。
気燃で力を上げていても全身にダメージを残し、腸の一部を抉られた。
「ぐう、おおお」
ズドオ
旋回を始めようとしてきたそれを宿魔で打ち落とした。
場に緊張が走る。
同時に恐怖に包まれた。
桐生隊長がやられた――。
ここまでか。
全員がそう思った、そのとき。
もう一頭の方が静かに唸りを止めた。
黒檀に白い煙が浮かび上がる。
夜想吟詠――。
衰勢の 奥の細道 行く先に
帰らぬ人の 行灯ともる
ゴオオ――
白い獣が空間を挽回した。
夜行スキル、【弐行】。
加勢に代わり箱を気燃で押し潰す。
浅田は白く霞んだ黒檀に殺気を込め、身構えた。
これが届かなければ全てが終わる。
渾身の枢意尽燃――。
減魔がこれまでに最も高い陽圧で満たされ始めた。




