第13話 枢意尽燃
悪魔と戦うときに出してはいけないのが恐怖と不安だ。そして、悪魔に段階移行をさせないために気をつけなければならないのが殺気である。
段階移行がなされると悪魔は細胞を持ち、全ての力が上がる。
しかし同時に、悪魔は段階移行をした状態でなければ殺すことができない。
悪魔を倒す最も理想的な形は、段階移行と同時に葬ることだ。
男はゆっくりと手にした鍬を頭上に掲げた。
月影の隊士たちの中には、まだこの男の戦闘現場を見たことがない者も多い。
気をつけろ――。
そう言われていた。次元の違う戦闘現場は居合わせるだけで力が要る。
受けた注意の内容を、このとき多くの隊士たちが理解していた。気を緩めると、場所に殺される。
男は頭上で流れを折り返した。
構えが静から動へと転じる。
本日二度目の殺しの造作――。
暗黒滞留、悪魔殺し――。
森羅万象、殺戮の気燃。
ゴオ――
びゅん
「――!!」
――ギュルギュルギュルギュル
――ズドオ
「……」
悲鳴を上げる暇がない。
それがおそらく悪魔側の現象結果に対する答えだろう。
放り投げた鍬が空中で突き刺さり、逃げた悪魔が潰されていた。
少し遅れて床に血が跳ね、乾いた音を立ててそれらが転がった。
現象に追いつけない。
悪魔なんていらないんじゃないのかこの世に。
この男の手間が増えるだけだ。
まるで害虫駆除の光景だ――。
全員がそう思った。
男が目視もせず左方へ振り放った鍬が細胞組成を完成させた五番を潰した。
女性隊士に飛び掛かった五番をその眼前で殺した。
鍬は空振りに終わった。
男は即座に二つ目の退魔気燃を充填させた。
標的を定め、逃げた悪魔をその気燃が帯びた投擲で殺した。
隊長、加勢浦丸――。
今度は自分ではなく若い女性隊士の頬に悪魔の返り血を浴びせた。
あとでこれは災いとなる。
残る箱は一つ。
死骸を取り除き、血に濡れていた鍬を拾って加勢の元へと戻す。
無言で受け取るその姿に、浅田は僅かだが死相を感じた。
しかし、これは信じる必要はない。
全員生き残る――。
揺るぎないその力を、ポケットの中の小さな石ころが伝えてきていたからだ。




