おいでませ、異世界
文字数はその時の気分なので、長文短文とバランス悪く更新していく予定です。
さて、突然だが、皆は異世界転生モノは好きだろうか?俺は大好きだ、チートスキルにハーレムなんて夢がいっぱい詰まってるからな。
俺、死んだら異世界行くんだ・・・なんて、流石に引かれるから言わないけど、心の中ではいつも思ってた。
だってそうだろう?現実世界では、学無し、上司運無し、彼女無し、ひょろい手足のくせに腹の肉だけは他よりある、ゴブリン体型って言葉がピッタリの32歳。
おまけに名前は国民的アイドルとほぼ同じなのに、顔は至って普通の中年顔。
そりゃあ、現実逃避のひとつやふたつするってもんだ。
昔はこんなんじゃなかったんだけどな〜、彼女だっていたし、仲の良い友達だっていた。
でも社会人になって、環境が変わって、友達とは疎遠に、彼女とはすれ違いが増えて・・・気づけば全てが手遅れで。
俺はそんな現実を紛らわせるのに、異世界転生モノにどっぷりハマっていった。
人はもちろん、動物にエルフや精霊、果てはモンスターまで、様々なモノに転生して色んな人達と面白可笑しく交流する主人公。
こんなに楽しく生きる事が出来るなら、俺も異世界転生したい!なんて思うのも無理ないだろう?まぁ、本当に行けるとしても、異世界転移モノだったら遠慮するけどね。
だって、この姿のままなんて、ねぇ?今の俺のまま、剣や魔法振るってヒロイン達に囲まれる・・・うん、ないわー、犯罪臭半端ないわー。
小説でよく使われる、実は眼鏡をとったり前髪をあげたりしたらイケメン、イケおじでした!とかだったら有りだったろうけどなー、あははは・・・はぁ。
そんな中、世界中で致死率90%といわれる恐ろしい病気が蔓延した。
予想ついたと思うだろうけど、まぁその通り、俺は感染した。
既に医療崩壊が起こってて、俺は病院で治療を受ける事が出来ず、自宅で待機するしかなかった。
それでも藁にもすがる思いで、俺は助けを求めてずっと電話をかけ続けた。
脳を壁に打ち付けらてんのかってぐらいの頭痛に、収まることの無い吐き気。
食べ物は当然食べれるわけないし、なんならもう立って歩く事も出来ない。
それだけキツいにもかかわらず、気絶は出来ないままで、俺は肉体的にも精神的にも既に限界だった。
気づいたら、繋がらないままのスマホを前に手を合わせて、俺は人生で1度も信じていなかった、いるはずのない神様に無意識に祈っていた。
神様神様、今まで信じてなくてすみません、今日からマジで信じて崇めます。
もう、本当になんでもします。俺に出来る事だったらなんだってします。
だから、お願いします、マジでこの地獄から助けてください!
そんな俺の思いが通じたのか、俺、大野 悟32歳の意識はそこで途切れた。
遠くで明るい音楽とアナウンスが聞こえる。
〜只今から、昼食の時間です。お父さん、お母さん、家族皆と一緒にご飯を食べましょう。〜
「ゔぅぅ・・っ」
人気の無い所で泣いているのは・・・あぁ、あれは俺だ。
あんな事言わなきゃよかったのに。
そしたら、傷付く事もなかっただろうに。
期待するだけ無駄だったのに。
「・・・嫌いだ、全部、全部大っ嫌いだ!!!」
『う・・・あ、れ?俺、寝て、た?』
どのくらいたったのだろうか、俺は意識を覚醒させた。
俺・・・ひょっとして助かったのか?視界はボヤけてるし、耳もよく聞こえない。
でも、気分だけはすこぶる良い。
「・・が・・・れにな・・・た!」
「なん・・・そうなお・・しょう!」
うんうんなるほど、どうやらここは病院みたいだな。
スマホ繋げたまま祈ってたのが幸をそうしたんだろう。
おそらく、俺が倒れた後にスマホが繋がって、会話が出来ない事から緊急性を察して、優先して救急車をまわして、病院に連れて来てくれたってところかな?ほら、その証拠に、俺の近くで誰かが会話してるし、家の平たい敷布団じゃなくて、低反発ベッド(?)で寝かされてるみたいだし。
『俺、助かったんですね・・って、うわっ!!』
俺はいきなり誰かの手で持ち上げられた。
身体が思うように動かない俺はされるがままだ。
よく見えないのでなんとも言えないが、おそらく救急隊員さんだろう。
だって、凄く逞しい腕の感触がしますもの、うん、俺とは全然違うね、小枝と大木くらいの違いだね。えっ?言ってて悲しくないかって?黙らっしゃい!
『あの、ちょっと。』
てか、待って待って、俺今絶対お姫様抱っこされてんじゃん。
やだやだやだ、中年男性のお姫様抱っこって誰得だよ、恥ずかしいし情けないわ。
『その、降ろしてもら・・・』
「この・・・はシドと・・・る!」
え?なになに?何の事?今シドって聞こえた気がするんですけど?この人の名前?なんで急に自己紹介?
『えーとシド・・さん?あの、どうして僕は持ち上げられているんでしょうか?』
俺の質問もそっちのけで、周りはなんだか歓喜してるっぽいけど・・・なんだ?何かおかしいぞ、ここ、本当に病院か?そんな俺の不安を他所に、その腕の主(シドさん?)は、また俺をベッドの上に置いた。
『あ、移動だったんですね・・っ!?』
ホッとしたのも束の間、突然、俺の頭を誰かが優しく撫でるような感触に声が上ずった。いや、これは撫でてるな、なんか良い香りがする!
「貴方・・・はシド。私の・・・・・ド。」
あぁ〜よく聞こえないのがもどかしい!でも、これは間違いない・・・俺の頭を撫でてくれてるのは女性だ!目が見えないからなんとも言えないが、声からして若い女性に違いない!ひゃっはー!
皆さ〜ん、全国の女性大好きな独身の皆さ〜ん!32歳、成人男性の俺は今、若い女性に頭を撫でられておりま〜す!は、いかんいかん・・・ついうっかり変なテンションになってしまった。
しかし、参ったねこりゃ。
目はろくに見えないし、耳もよく聞こえない。
おまけに身体も思うように動かないし、いい加減この状況を把握したい。
『すみません、ここは何処ですか?てか、俺の声聞こえてますよね?』
あれ?俺の口、確かに動いてるよな?なんで、泣き声みたいなのが、聞こえ・・て。
え、え、え、嘘、嘘だろ?待て待て待て!
頭から血の気が引く。
そんなまさか・・・まさか、まさか、まさか!!
よく見えない目、聞こえづらい耳、上手く動かせない身体。そして、俺が喋った時だけ聞こえる泣き声。
嘘だろ、え、ま、ちょ、本当に、まさか!
「おぎゃー!おぎゃー!」
俺、赤ん坊になってる〜〜〜〜!!??
3つの揺らめきが宙に浮かぶ四角いガラスのような物を見つめている。
そこには泣き声をあげる赤ん坊、シド・ティアトールが映っていた。
「うん、無事に入ったみたいだね」
「スキルもちゃんと発動してるね〜。でも、ちゃんと僕らの望む役目を果たしてくれるかな〜?」
「あれと同じでヒューの為だけに動いたりして。」
「それはないはずだよ、転生先はあの国の王子の器にしたんだし。」
「それはどうかしら?双子のあれと、似たような世界にいたのよ?同じようにならないっていえるかしら?」
「あれは、双子が介入し過ぎたからでしょう?あの話に違和感をもってたし大丈夫だよ。」
「でもでも〜、あの双子また僕らの目を掻い潜って何かしてくるよ〜、絶対。今だって、姿見せないわけだし。」
「本当それよねぇ、よくもまぁ、私達の目を掻い潜ることが出来る事。」
「きっと大丈夫。そういうのも見越して、数ある中からあれを選んで入れたんだろう。」
「まぁ、おかげで、双子だけじゃなく私達全員、追加出来なくなってしまったけどね。」
「体の負担を考えると仕方ないよ。むしろ、よく耐えてくれた。本当に強い子だよ。」
「あはは、確かに〜。けど、双子も無茶するよね〜。あんなの入れてさ。もしもショックで死んでたらと思うと・・・。」
「ちょっと止めてよ!本当にあの双子が馬鹿な事考えるから・・・末っ子だからって甘やかし過ぎたわ!少しは育てる自覚持ちなさいっての!」
「本当だね〜。* ***** からもらった未来線も完璧に使えなくなったし。」
「嘆いてても仕方ないよ。とにかく、あれには頑張ってもらおう。」
「ま、そだね〜、あれも願いが叶ったから、頑張ってくれるよね〜」
「頑張ってくれなきゃ困るわよ、生命がかかってるんだから!」
「まぁまぁ〜、落ち着きなよ〜。」
「とにかく見守ろう。そして、無事に最後まで育てるんだ。」
「・・・えぇ、そうね。それが******の願いだもの。」
その言葉を最後に全ての気配が消える。
後には何も残らなかった。
揺らめきは全部で3体なんですが、分かりづらかったですね、すみません。