①① 現状は
「とりあえず、貴女に今の現状を説明するわ。ローレンスはヨルダンの件で今は王太子ではないけれど、学園を卒業するまでの期限付きで猶予が与えられているの」
廃嫡、そして国外追放しようとしたシスティルを止めたジョエルは、ローレンスに猶予を与えてはどうかと提案した。
それにはクリスティンも驚いたが、ジョエルの提案に乗るような形で落ち着いたようだ。
そして、ローレンスは今回の事を反省して、態度を改めているようだ。
確かに教室にいるローレンスは必死に勉学に励んでいるようにも見える。
今のところ我儘で傲慢な態度は見えずに大人しいが、クリスティンによれば根底は以前のローレンスのままで、まだまだ大きな変化はないのだという。
それにエンジェルとコーリーのラブラブすぎる様子に思うところがあるらしく、複雑な心境でいるローレンスは苦手な勉強をすることで気を紛らわせている。
「イワンは……色々あって自信を喪失しているみたい。貴女が元気づけてあげれば、すぐに以前のイワンに戻りそうだけど」
「色々って……」
「うふ……色々」
舞踏会の後、クリスティンにプライドをバキバキに折られて、すっかり自信を喪失したイワンはアリアと共に教室でボケっとしている。
ゲームのイワンは活発で男らしい感じではあったが、今では物思いに耽っている静かな令息である。
「ゲームみたいに向こうのほうから近付いて来てくれたら楽なんですけど……」
「残念ながら此処は貴女がやってきたゲームとは違うと思うわよ?」
「そうですよね……」
「わたくしの存在がシナリオを引っ掻き回したようだけれど、貴女に知識があることには変わらない。彼等のキュンとくるツボは分かるんでしょう?そのチャンスを活かさずにいつ生かすのよ?」
「でも、私……あまり自信がなくて」
「その謙虚さに二人は惹かれるような気がするけど……オーロラ様だって、ローレンスかイワンと結ばれたいと思っているんでしょう?」
「勿論、そうなれたら嬉しいですけど…」
オーロラになる前は恋愛経験もなく乙女ゲームや二次元の男性に癒される日々……。
恋愛経験は皆無なのである。
けれどクリスティンは乙女ゲームの設定など関係なしに、自分で運命を切り開いている。
自信に満ち溢れているクリスティンの姿が輝いて見えた。
そしてずっと気になっていたことをクリスティンに質問する。
「あのっ!クリスティン様はどうやってジョエル様を落としたんですか!?」
「……?落とすも何も元々ジョエルはクリスティンが好きだったんでしょう?」
「そうですけどゲームでもジョエルのハッピーエンドって、なかなか辿り着けないんですよ?得体が知れないというか、訳がわからないというか……」
「貴女にはそう見えるのね」
「クリスティン様には違うんですか?」
「あれは自分の有用性を良くわかっている計算高い男よ?可愛い子猫の皮を被った野獣なの!いっちばんタチの悪いタイプだわ」
「や、野獣……!?」
オーロラの思っている……というよりゲームのジョエルの印象とは違うようだが、これもクリスティンの影響なのだろうか。
「……僕の話をしてくれているの?クリスティン」
「あら、ジョエル……相変わらずの地獄耳で何よりだわ」
「!!?」
「クリスティン限定だけどね。今日のお昼は一緒に食べようって言ったじゃないか」
「そうだったかしら」
「連れないなぁ、そんなところが追いかけたくなるんだけど」
雪の王子様、ジョエルの楽しそうな姿に感動していた。
それにしてもコーリーとエンジェルの関係は爽やかで甘酸っぱいのだが、クリスティンとジョエルの場合は大人で色っぽい雰囲気が漂っている。




