①⓪ 人生相談
「てっきり異世界に転生した人かと!今の話は忘れてください」
「異世界に転生?ああ、異世界転生……!成る程、だから転生者と呼ぶのね!」
「知ってるんですか!?」
「聞いたことあるわ!悪役令嬢とか聖女とか」
どうやら思っていた通り、クリスティンは同じ転生者で間違いないようだ。
ホッと息を吐き出した。
「この世界は"ドキドキ☆ドリームチェンジ~貴女好みに染めちゃおう"、通称ドキチェンという乙女ゲームの中なんです!」
「乙女ゲーム……?」
「内容はカクカクシカジカで、攻略対象者達とヒロインがカクカクシカジカで愛を育んでいくんですよ」
クリスティンは興味深そうに話を聞いていた。
オーロラは乙女ゲームの内容とキャラクター達、その役割などを細かく説明していく。
「ふーん、なるほどね……彼等は攻略対象者だったの。無駄に良い顔してると思ったわ」
「………無駄に?」
「だから暫く私の後をつけてみたり、様子を見ていたのね。納得だわ」
「す、すみませんでした!」
まさか尾行がバレているとは思わずに、すぐさま頭を下げる。
先程の令嬢達の言葉が頭から離れない。
「オーロラ様は誰を狙っていたの?」
「私は可愛い系の容姿を選んでいるので、一応はローレンスとイワンが出てくる可能性が高いんですけど……」
「つまり貴女はローレンスかイワンと結ばれたかったということ!?」
「は、はい……一応は。一番好きなキャラクターだったので」
「素晴らしいわ!!」
「へ……?」
何が素晴らしいのか分からずに、手に持っていたサンドイッチを置いてクリスティンの言葉を待っていた。
「つまり貴女は今、ローレンスかイワンを変えることができる"ヒロイン"なのでしょう!?」
「えっと、多分……」
「そして攻略対象者とやらを変えられる力を持っている。そうよね?」
「………どうなんでしょう」
「正に需要と供給!!乙女ゲームのヒロイン、最高じゃない。なら遠慮なくどんどんと攻略して頂戴。ジョエルもオススメよ!!」
クリスティンは嬉しそうに此方を見ている。
「いや、ジョエル様はいいです」
「そう……?」
少しだけ残念そうなクリスティンの表情が気になるところであるが丁重にお断りするのが正しい選択である。
「………貴女は素直で慎重なのね」
「えっ…?ありがとうございます!」
「わたくしが知ってる"オーロラ"とは違うみたい。まるで別人だわ」
「??」
「いいえ、こっちの話よ」
"わたくしが知っているオーロラ"という言葉が引っ掛かったが、特に気にする事はなかった。
クリスティンはこの乙女ゲームの内容を全く知らないからだ。
「ああ、そうだわ。一つ気になることがあるんだけど……」
「何でしょう?」
「ヒロインであるはずの貴女は何故、攻略対象者達を攻略しないの?」
「う゛っ……!!」
クリスティンの鋭い指摘が突き刺さる。
「本当は素敵な恋をしてみたいと思ってたんですけど……えっと、その」
未だにイワンとローレンスに話しかけられないでいる。
クリスティンに話していくうちに、いつの間にか人生相談へと発展していく。
聞き上手なせいか、長年の悩みがポロポロと口から溢れ出ていく。
「つまり、貴女は攻略対象者を攻略しようと意気込んでいたけれど、攻略対象者や私達の関係性や姿が変わったことに違和感を感じて動けなかった。あとは自分が恋愛出来るか自信がなくて不安だった……ということかしら?」
「そ、その通りです!恋愛経験が全くない私が言うのも何なんですけど、恋って難しいじゃないですかッ!!」
「まぁ……そうね」




