⑨ まさかの出来事
「兎に角、オーロラ様は……」
「ーーオーロラ!?今、貴女今"オーロラ"って言ったかしら?」
「ひっ…!」
「……ッ、クリスティン様、ごきげんよう」
「クリスティン様、あの…!これは」
「ごきげんよう、皆様……わたくしの気のせいじゃなければ今"オーロラ"と聞こえたのだけど」
噂のクリスティンがグンと近づいて来る。
皆がサッと顔を逸らす中、クリスティンに詰め寄られている令嬢はヒクヒクしながら、オーロラの方を指差す。
「こ、こちらの御令嬢がオーロラ様ですわ…!」
「!?!?」
(ちょっ!?なんてことを!!)
ハニーゴールドの髪がサラリと揺れて、クリスティンと視線が絡む。
あまりの圧力に反射的にヘラリと笑顔を返す。
近くでみるとドえらい迫力である。
上から下まで眺めたクリスティンは暫く考え込んでいるようだった。
「…………今、お時間宜しいかしら?」
「は、ひ……!」
関わらないと決めた瞬間から、何故かクリスティン側から攻めて来るという、まさかの出来事である。
周囲からは「何したのかしら……」という同情するような視線と疑惑の目が突き刺さる。
(だれか助けて~!)
目が合わないようにサッと逸らされた視線。
そのままクリスティンについて行くしかないと悟り、静かに立ち上がる。
クリスティンの後ろに付いていくと、令嬢達の安心するような声が聞こえてくる。
すると立ち止まったクリスティンが少しだけ振り向いて座っている令嬢達に声を掛ける。
「ウチにいるのは化け猫なんかじゃなくて、とても可愛い猫なのよ……?」
「「「…………ッ!?!?」」」
「訂正しておいて下さる?」
「「「は、はい!!」」」
令嬢達の声が揃う。
そんなクリスティンの後ろをついて行く。
沈黙に耐えかねて口を開く。
「あのっ!何か御用でしょうか?」
「貴女、同じクラスよね?」
「はい」
「……盲点だったわ。てっきりオーロンナだと思っていたから」
「オーロンナ?」
どうやらクリスティンは名前のことを言っているようだ。
そういう自分もクリスティンをクリンティアやクリムゾンと勘違いしていたので人のことは言えないのだが……。
クリスティンに連れてこられたのは立派な噴水があるガーデンスペースだった。
貴族が通う学園だけあって、どこからか紅茶とお茶菓子が出てくる。
てっきり人気のない建物の裏に呼び出されると思ったが、明るく人が多い場所に安心していた。
慣れた様子で紅茶を飲んだクリスティンは一息ついてから口を開く。
「クリスティン・アインホルンよ……いきなり呼び出して御免なさい。お友達とお昼だったんでしょう?」
「い、いえ……」
クリスティンの視線はずっと手に持っているサンドイッチに集中している。
どうやらサンドイッチを握りしめながら移動していたようだ。
「私はオーロラ・スライドラです」
「あぁ!最近、再婚したスライドラ子爵の……成る程ね。だから舞踏会に居なかったの」
「……?」
「ところで……貴女、何者なの?」
(ーーーいや!お前が何者じゃい!!!)
そんなツッコミを心の中で消化してから、意を決してクリスティンに尋ねる。
「ク、クリスティン様って、転生者ですよね!?」
「………?」
「実は私もそうなんです!!」
「テンセイシャ?何かしら、それ?」
「乙女ゲーム、知りませんか?」
「乙女ゲーム?知らないわ」
「ドキチェンは……?」
「土器ちゃん?」
思っていた反応と全く違う。
クリスティンはコテンと首を傾げて不思議そうに此方を見つめている。
それだけでも周囲の目を惹くのだから、恐ろしい美貌である。




