④ 甘々な二人
ドリルのようなグルングルンの特徴的な髪は、サラサラのストレートヘアになっている。
キリリとしたキツめな目元は重たい前髪とメイクでカバーされている。
派手派手な髪飾りやアクセサリーはしておらず、清純派女優のような可愛さに思わず息を呑んだ。
(ハッ……まさか転生者!?)
これだけの変貌ぶりを目の当たりにすると、転生者を疑ってしまうのだが、天敵であるはずの"オーロラ"に全く興味を示さないのもおかしな話だ。
エンジェルは此方を見ながら「ごきげんよう」と挨拶するが、視線は明らかに"コーリーに触るな"的な意味が込められている。
コーリーがエンジェルを制して、今までの経緯を説明する。
エンジェルは誤解だと分かった瞬間に、態度がすぐに友好的なものに変わる。
「オーロラ様、先程は大変失礼致しました……あの、勘違いしてしまって」
「い、いえ!」
エンジェルは恥ずかしそうに頬を染めながら咳払いをする。
「僕の婚約者は少し嫉妬深いんだ」
「違うわ…コーリーがモテ過ぎなのよ!」
「そういうエンジェルこそ、他の男の視線を集めてるじゃないか」
「え…?そうかしら」
「他の令息に触らせたら僕……怒るからね?」
「…………はい」
「ん、良い子だね……エンジェル大好きだよ」
「っ、わたくしだって貴方を好きな気持ちは誰にも負けませんわ!」
「ありがとう……君が婚約者で僕は幸せだ」
「わたくしもです…」
(ばっ、ば……馬鹿すぎるバカップルッ!!!!)
あまりの甘さに体が溶けそうである。
(砂糖を口に詰め込まれている気分だわ…オエェェ)
先程から白目を剥いている。
門に入って早々、羨ましい限りである。
そしてエンジェルとコーリーからはハートが飛び散っている。
マッチ棒のように細くてモサモサの髪をしていたコーリー・オクターバは爽やかな青年になりまるで別人である。
自信がなく、いつもオドオドしているはずのコーリーは、堂々と目の前に立っている。
それにザ・悪役令嬢であるエンジェルは最早、悪役などという言葉が程遠いほどに可憐である。
高圧的な態度はどこへやら…。
表情はコロコロと変わり、笑顔が大変愛らしい。
二人の幸せオーラに、オーロラの心は折れかけていた。
「コーリー、皆が待ってるわ!そろそろ行きましょう?」
「ああ、そうだね」
「オーロラ様、三年間同じ学園に通うのですから仲良く致しましょうね」
「オーロラ嬢、宜しくね」
「では、ご機嫌よう」
「ご、御機嫌よう!!」
二人は柔かに手を振っている。
コーリーがエンジェルの腰に手を回して、エンジェルはコーリーにピッタリと寄り添っている。
仲良さげに歩いて行く二人を見送りながら思わず呟いた。
「私が来る前に何があったの……?」
そんな独り言は風に消えていった。
こうして(恐らく)チュートリアルは終わったのだった。
*
先程から思っていた事があった。
(何処かに必ず転生者が居るはず…!!)
始まってもいない物語が既にぐちゃぐちゃである。
そもそもコーリーとエンジェルがくっついている時点で何かがおかしいのだ。
それに、性格も設定も身なりも全てが違う。
(チュートリアルなんて無くても、私は前の知識があるから大丈夫だよね!まだまだ攻略対象者は登場していないから希望はあるわ)
それに悪役令嬢がチュートリアル令息とくっついたということは、ライバルが一人減ったということだ。
(いい意味で捉えましょう!)
気を取り直して教室へと入る。
またイチャイチャしているエンジェルとコーリーは置いといて……攻略対象者の姿を探す。




