⑦ 今すぐダイエット
「ダイエットしなくちゃ…!!」
「ダイエ…?何だそれは…」
「クリスティン、本当に大丈夫??」
「えぇ、大丈夫よ。むしろ今までが大丈夫じゃないの‥‥このままだと窒息死よ!!」
「え……?」
「何を言ってるんだ、クリスティン?」
「……お父様、お母様、そしてオスカー」
「……」
「??」
「…?」
鬼のような形相で家族に問いかける。
「今の自分に、満足してますか…!?」
「…!?」
「クリスティン……?」
「姉上、どうしたんですか…ケーキ食べます?」
「いらないわッ!!!」
ケーキを断ると、まるでこの世の終わりのような顔をした三人が此方を見ていた。
エラは床に座り込み、オスカーは体を震わせる。
そしてトビアスに至っては固まってしまい動かない。
「わたくし、今日からケーキは食べません。誕生日の日だけでいいです」
「おい…!いつも2ホール食べるケーキをいっ、要らないと言ったのか!?」
「嘘だろう?あの姉上が、あの姉上がケーキをッ!?!?」
「そ、そんなぁ……クリスティン死なないでぇ!!!」
エラが泣き叫ぶ。
そんなに深刻な事態だとは思わずに生唾を飲み込んだ。
「姉上が要らないなら俺が食べるから…」
「オスカァアアァァッ!!!」
「ひっ…!!!」
「オスカー、よく聞きなさい。この先、貴方はアインホルン家を継ぐでしょうね!!けれど、このままだとアインホルン家は途絶えるかもしれない……何故だか分かる!?!?」
「わ、分かりません」
「このまま今の食生活を続けていたら病気になるからですぅ!!そしたら一日の殆どを野菜を食べて過ごさなければならない……かもしれない。でなければ貴方は…死ぬわ」
「……そ、そんな!?」
「それかヤギのメェーンのように一生草食って生きるのかッ!?!?」
「あ、あっ……い゛やああ゛ぁァアァッ」
オスカーは何より野菜が嫌いである。
この世で一番嫌いなものが野菜である。
予言する未来に鼻水を垂らしながら震えている。
「ク、クリスティン…!!なんて酷いことを!!」
エラが頭を押さえるオスカーを庇うように手を広げた。
「エラおかあさまァアアァァッ!!」
「………ぎゃあああ!!」
クリスティンがいきなり眼前に迫り、エラは後ろに倒れ込み尻餅をつく。
ここまでくるとホラーである。
「この間作ったオーダードレスが破けて、もう入るドレスがないのでしょう!?」
「なっ、何故それを……っ!!」
「このままヘルマン公爵夫人に怒られ続けて、ヴェーバー伯爵夫人、エルプ侯爵夫人に馬鹿にされたままでいいの??」
「はッ…!!!」
「あの憎たらしい笑顔を思い出して下さい、今すぐ」
「……ッ」
「もし……お母様が昔のような美貌を取り戻したとしたら社交界で花咲く薔薇のように輝けるはずよ!」
「……クリスティン、貴女」
「そして、あのケバケバしい彼女達の鼻を明かしてやりましょう…」
恐ろしい笑顔にエラの顔が引き攣っている。
「クリスティン…エラが怖がって……」
「トビアスお父様、お黙りになって」
「……!!」
「お父様、汗臭いわ」
「ぐっ…!」
「お父様、枕が臭いわ」
「…ぐはっ!」
「お父様…」
「ヒィ‥ッ!」
「トビアス様ァアアァァッ!?」
スローモーションのようにゆっくりとトビアスが膝をつく。
クリスティンを愛して止まないトビアスには、耐えきれなかったのだろう。
クリスティンの言葉は深く突き刺さったようだ。
どうやらHPは0である。
「さぁ、皆で肉を削ぎ落としましょう!!!!」
有無を言わせぬ笑顔でニタリと微笑んだ。