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⑥⑧ とある男の逆転劇?(1)



シル・ルカーナ


ジョエルの養父であるルカーナ公爵である。


そしてその後ろには、先程「父上に呼ばれているからごめんね」とクリスティンの元を離れたジョエルも一緒にいる。

そんなジョエルは此方に向かって嬉しそうに小さく手を振っている。



「ジョエル、貴様ッ!何故此処に」


「やぁローレンス、随分と酷い有様だね」


「何の用だ……っ」


「君に用がある訳じゃないんだけどね……ああ、涙と鼻水で凄い顔だよ?拭いた方がいいんじゃない?」


「うっ、うるさい…!」



ローレンスが鋭くジョエルを睨みつける。

二人の間には刺々しい雰囲気が流れていた。



「シル、ジョエル……申し訳ないが予定を早める」


「……本当に宜しいのですか?」


「ああ、やはり愚息は王の器ではなかった。残念ながらな」


「父上ッ…!僕だって、まだやり直せるはずです!!」


「もうよい……これ以上見ていられぬ」


「僕にもチャンスを下さいッ」


「婚約者候補にも見放され、信頼できる家臣にすら盾をつくお前の何を信じればいいというのだ?」


「……っ、今から、今からキチンと勉強やマナーを学びますからッ!!」


「もうすぐ学園に通い、未来の家臣達と信頼関係を築いていくというのに………話にならない」


「そ、そんな……!!」



ローレンスは顔を真っ赤にしながら必死に訴えている。

このままローレンスが王になっていたらと思うと、本当に恐ろしい限りである。

エンジェルと共に泣き崩れるローレンスを眺めていた時だった。



「ジョエル・ルカーナ改め、ジョエル・ラ・マーリナルトを本日から王太子とする」


「ーーーッ!?」


「謹んでお受け致します」



ジョエルが綺麗にお辞儀をする。

国王が発した言葉にクリスティンは一瞬、耳を疑った。


(訳ありって……)


どうやらジョエルの訳あり事情は、公爵の隠し子でもなく、他国の王族の生き残りでもない。

マーリナルト王国の王族そのものだったようだ。


ローレンスが既に王太子としており、ジョエルの顔立ちや持つ色を見る限り、マーリナルト王国ではないと勝手に思い込んでいた。


(どうりで他国を探ってもジョエルの情報が無いはずだわ)


灯台下暗し………つまらない失敗をしたものだ。


『クリスティンに迷惑を掛ける事はないから安心して。驚くかもしれないけれど』

『むしろ、今の君にとってはプラスに働く可能性も大きい』


確かに迷惑は掛けていないが、その事実には驚いた。

確かに婚約者が王太子であれば、プラスに働く事だろう。

ジョエルの言葉の意味がハッキリと理解できたが、出し抜かれたようで気分が悪い。



「クリスティン、驚いた?」


「……えぇ、とっても」


「大好きな君にサプライズだよ」



此処でジョエルを問い詰めて、騒ぎ立てる訳にもいかずに只々笑みを張り付けていた。

言い出すタイミングに場所、計算し尽くされた攻撃に成す術なしである。



「お父様、何故わたくしに黙っていたんですか?」


「す、すまない、クリスティン………ジョエルから口止めされていてな」


「トビアス様、あとで例のワインを父から受けとってください」


「おお……!」



どうやらトビアスはジョエルにワインで買収されていたようだ。


(小賢しい事するじゃないの…!)


ジョエルを見ながらニッコリと微笑む。

勿論、良い笑みではない。

背にはメラメラと燃え盛る炎。


エンジェルは「あらあら……」と言って口元を押さえている。



「お父様、説明してくださいなぁ?」


「あ、あぁ…」


「トビアス様、クリスティンには僕が説明致します」



トビアスに説明を求めると、怯えるトビアスの代わりにジョエルが前に出る。




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