⑥① トビアスの逆転劇(1)
クリスティンが満足そうに笑みを浮かべていた頃ーー
大体の貴族達が挨拶を済ませた頃合いを見計らい、トビアスは真紅の絨毯を踏みしめて壇上へと上がる。
「国王陛下、王妃殿下、宰相殿……御機嫌いかがでしょうか」
「……!」
「誰だ、君は…?」
「おや宰相殿、お忘れですか?トビアス・アインホルンです」
「ーーッ!!?」
「昔の姿を見ているようだな…アインホルン辺境伯」
「恐れ入ります、陛下」
綺麗にお辞儀をする様子を口をアングリとあけながら見ている宰相。
トビアスのあまりの変貌ぶりに目を離せないようだ。
「暫く顔を見なかったが…」
「えぇ、アインホルン領で問題が起きまして、対処に追われておりました」
「問題だと…!?報告は受けておらぬぞ!」
「えぇ、独自に色々と調べておりました」
「……」
「ところで陛下、最近マーリナルト王国で闇オークションが開催されているのはご存知ですかな?」
「!!!」
「このマーリナルト王国で闇オークションだと!?本当か、ヨルダン」
「っ、いいえ陛下!私の耳にはそのような話……全く届いておりません」
「ヨルダンはこう言っているが…」
宰相ヨルダンと視線が絡み合う。
鋭い視線を向けて此方の様子を伺うヨルダンとは違い、トビアスは口元に笑みを浮かべている。
その余裕のある表情に、ヨルダンは明らかに動揺を見せている。
「ア、アインホルン辺境伯…!詳しく話を聞きたいので場所を変えませんか?陛下はここに居てパーティーを続けてくだされ」
「いや、結構。私は陛下に伝えたいのです」
「……聞かせてくれ」
「その事を話す前に確認したいことがあるのですが、私の質問に答えて頂けますか?」
「申してみよ」
「ここ数年、いや……以前からアインホルン領が王国に納める税は、年々高くなるばかり…」
「何…!?」
「他の方々に窺っても、税は一切上がっていないというのですが、何故うちの領だけが毎年引き上げられているのでしょう?」
「何、だと……!?」
「陛下に忠誠を誓って辺境伯の爵位を承り、国の為に尽くしてきたアインホルン家としては由々しき事態でしてね……本日お尋ねを申し上げた次第です」
「ーーーどういう事だ、ヨルダン!!」
「………そ、それは」
「今では息子の働きもあり、国に行き渡るほどの食料を輸入している身と致しましては……正当な評価を貰えずに悲しみに暮れております」
「…ッ」
「説明を……願えますかな?」
ヨルダンを睨みつけるとビクリと肩を揺らす。
曖昧な返事を繰り返すヨルダンを国王が問い詰めているのを、ただ黙って見ていた。
他の貴族とあまり交流を持たずに、年に一度の舞踏会でしか表舞台に現れないアインホルン家。
関わりが薄い故、アインホルン領だけ徐々に上がっていく税に気づく事は無かった。
それを不思議に思っていたクリスティンが、二年前の舞踏会でヘルマン公爵夫人に確認したところ、王都に住む貴族達の税は五年前から上がっていなかった。
その事をクリスティンに突き付けられて初めて、自らが仕える王に不信感を持つ事となった。
昔からの友人で、国王であるシスティルを心から慕っており、理不尽な命にも何一つ疑問に思わなかったのだ。
システィルとの関係は学園時代から良好で、絶対的な信頼関係があるからと…。
今まで特に反論することなく、全て言う通りに受け入れてきた。
しかし、王都に住む貴族や他の貴族達の何倍もの税を納めている事実や、異様に安く捌かれる輸入品の数々。
自分達の働きが正当に評価されていないことが分かったのだ。
エラに伝えて改めて確認すると、クリスティンの言う通り、不自然な命令と金の動きに気づくことが出来たのだ。




