⑤⑨ クリスティンの逆転劇(3)
(他人を妬み文句を言う暇があるのなら、自分を磨きなさいッ!!)
二人を拒否するようにフンッと首を背けた。
「こっちが折角仲良くしてやろうと…!」
「結構!お断りよ」
「は……なんだよ。本当は俺に構って欲しかったんだろ?なら早くそう言えよ」
「………あら、何の話をしているの?」
「俺の気を引きたくてこんなことしてんだろう?クリスティン」
今までの態度のどこにそんな要素があったのか、是非とも教えてもらいたいくらいだ。
ツーンとしていると徐々に苛立っていくイワン。
「俺に恥をかかせるつもりか?」と小声で囁いたイワンに、ベーっと舌を出して拒絶の意を示す。
すると話す言葉は徐々に脅しに変わっていく。
「おいッ!!返事くらいしたらどうだ?潰してやろうか!?」
「俺に歯向かうなんて分かってんのか?あ゙ぁ!?」
イワンの方が爵位が高いからといって、気を使う必要はない。
逃げ道などいくらでもある為、余裕の表情を崩さない。
少し先に見えるヴェーバー伯爵夫人とエルプ侯爵夫人の意気消沈している様子を見れば、エラが作戦通り上手くいったのだと察する事が出来た。
こうして爵位に拘り、他人を粗略に扱い、馬鹿にしていると足を掬われてしまうのだ。
「そろそろ素直になった方がいいんじゃない?」
「あんまり調子に乗らないでよ!!痛い目に合うことになるわよ…?」
アリアの態度も感情も、イワンと共に荒くなっていく。
溜息を吐いた後「もう良いかしら?」と言って立ち去ろうとした時だった。
「……待ちなさいよッ!このクソ女」
アリアはテーブルの上に置いてある飲みかけのワイングラスを見せつけるように掴むと、ニヤリと悪い笑みを浮かべる。
そんな様子を静かに見据えていた。
アリアの本性が出てくる様を見てもらいたい人が居たのだ。
アリアが此方に向けてワイングラスを振り上げた時だった。
「ーーークリスティン、待たせたかな?」
「ッ、ジョエル、さま…!?」
「……」
「どうやらタイミングはバッチリだったみたいだけど」
雪の王子様こと、ジョエル・ルカーナである。
ジョエルの冷めきった表情にアリアは焦りを隠せない。
「こ、これは違うんです!仲良く、仲良くしようとッ」
なんとも無理のある言い訳ではあるが、アリアは必死である。
何故ならば今までの努力が無になってしまうから。
ジョエルはクリスティンを守るように自分の方に引き寄せてから鋭い視線をアリアに向ける。
「ぁ…っ、こんな、嫌」
「遅いのよ…わたくしを待たせるなんてどういうつもり?」
「……待ち合わせの場所に居なかったのは君だろう?」
「あら、わたくしの王子様は随分と不甲斐ない事を言うのね」
「ごめんね、僕のお姫様がお転婆すぎる事を忘れていたみたい。まさか、この国に君に害をなそうとする人が居るとは思わなかったんだ」
「ぁ…、っあ……違う、ちがっ」
ーーーー半年前
一悶着あった後、ジョエルの行動はとても早かった。
ジョエルの口から「クリスティンが前向きに婚約を考えている」と聞いたトビアスとエラは、やっと気持ちが届いたのを知るや否や、感動して泣き出した。
どうやら二人は、陰ながらジョエルを応援していたらしい。
「良かったわね、ジョエル」
「あんなに小さかったジョエルとクリスティンが…!」
しかしそんな二人に「まだジョエルとの婚約までは考えていない」とハッキリと伝えたのだ。
二人は残念そうではあったが「クリスティンがそう言うのなら」と納得してくれたのだ。
ジョエルの言葉で、何をされるのかは大体想像が出来ていた。




