⑤⑧ クリスティンの逆転劇(2)
「「「!!」」」
「初めまして……ではなく"お久しぶり"の方が殆どですわよねぇ?」
鋭い視線と、その場に似つかわしくない恐ろしい程の笑顔。
辺りにはブリザードが吹き荒れている。
(ーーコレよ!!この顔を見る為に、頑張ってきたのよッ)
この日の為に周囲を巻き込みながらも、死ぬ気で努力してきたのだ。
"クリスティン"として生きる以上、舐められたままでいるなんて耐えられない。
今の自分を誇る生き方を。
(さぁ、クリスティン……新しい貴女を見せつけてやりましょう)
今まで溜め込んだ毒でも吐き散らしてやろうと口を開いた時だった。
「クリスティン、久しぶりだな」
「ああ、クリスティン……とても美しいドレスね!」
「どうだ?俺と向こうでゆっくり話をしよう」
「是非、私もそのドレスが欲しいわ!」
「……あ゛ぁん!?」
「「………」」
出鼻を挫かれた為、イラッとして思わずドスの効いた声が飛び出した。
先程まで探していたイワンとアリアの登場である。
二人は不機嫌な此方を気にする様子はなく、近づいてきたと思いきや、まるで昔から仲の良い友達のように親しげに話し掛けてきたではないか。
(……ふーん、こうきたか)
今までの態度を反省するどころか、無かった事にして接するつもりのようだ。
拒絶されるとは微塵も思わないのだろうか。
確かに、以前の優しいクリスティンならば簡単に許して受け入れてしまうだろう。
しかし、ここまで堂々としていると一層のこと清々しく感じてしまう。
(……随分と舐められたものね)
二年前の舞踏会でクリスティンがイワンにやった事の応用篇だろうか。
(なかなか賢いじゃない?)
イワンは以前の態度とは真逆で、まるで恋人かのように優しく接してくる。
冷めた目でイワンを見ていても、お構いなしである。
腰に手を添えられたイワンの手を叩く。
「気安くわたくしに触らないで頂戴」
「つれないなぁ……俺とお前の仲だろう?」
「……」
無表情、無反応な為か、次第に二人の余裕のある態度には次第に焦りが滲む。
そんな二人の縋るような視線を無視し続ける。
群がっている令息や令嬢達は、不思議そうにこのやり取りを見ている。
「おい、クリスティン……!さっさと来い」
「もう、皆見てるじゃない!早く向こうに行きましょう!ね?」
「………」
こういう時は、何を言っても相手が二人ならば無理矢理丸め込まれる可能性もある。
否定すればどうなるかは以前のイワンの時と同様、逆に相手の思う壺という訳だ。
ひたすら黙っていれば、勝手に舞い込んでくるパーティーやお茶会の誘い。
そんなものに釣られる訳がないのに。
(本当に詰まらないわ……もう一捻りくらいないと、わたくしは倒せなくってよ?)
そろそろ二人の相手をするのも飽きてきた為、ニコリと笑いかけると、イワンに捕まれている腕を思い切り振り払う。
「……もう出荷の時期は過ぎましたが、如何致します?」
「…っ」
「それと、少しは他国の事をお勉強なさいまして?その程度の頭の悪い口説き文句でわたくしが靡くとでも?」
「……!」
「それにわたくし……貴女とドレスについて語り合う程、仲の良いお友達になった覚えはありませんけれど?」
「っ!?」
やっと怯んだ二人に、ブラックジョークを交えながら責め立てていく。
勿論、周囲の連中にも「覚えているからな」という意味を込めて牽制していく。
やはり人の悪口は言うものではない。
立場や関係が変わったときに、容赦なく自分の首を締め上げてしまう。




