⑤⑦ クリスティンの逆転劇(1)
オスカーが愛を育んでいる頃ーー
クリスティンは優雅に、そして見せつけるように会場を歩いていく。
自分の魅せ方なら、よく知っている。
周囲に愛想を振り撒きながら目的の人物を探していた。
それはずっとクリスティンをコケにしていたイワン・エルプとアリア・ヴェーバーである。
舞踏会が始まってすぐにイワンとアリアの元に行かなかったのには理由があった。
二年前の舞踏会でも思っていたのだが、以前のクリスティンの婚約者だったコーリーの心を奪った子爵令嬢の姿がないのだ。
会場の隅から隅まで探したのに見つからない。
(一体、何者なの……?)
考えられるのは現段階では貴族ではない。
または何らかの理由で舞踏会に招待されていないと考えるのが普通だろうか。
クリスティンの記憶を手繰り寄せても、子爵令嬢の姿はどこにもない。
覚えているのは、以前のコーリーと仲良さげに話す後ろ姿と、婚約破棄を告げるコーリーの隣で、腕を組みながら此方を見ている憎たらしい顔である。
(居ないものを探し続けても仕方ないわ…切り替えてイワンとアリアを探しましょう)
当たり前ではあるが、イワンはあの件から近付いてはこなくなった。
『イワン・エルプがクリスティン・アインホルンを狙っている』
そんな噂は一年以上も続いていた。
というよりは押しかけられても鬱陶しいので、近付かないように意図的に噂を流し続けていた。
そしてアリア・ヴェーバーはジョエルに気に入られようと必死で食らい付いていた。
ジョエルがクリスティンに想いを寄せているとは夢にも思っていないだろう。
一見してみれば、アリアは純粋にジョエルに想いを寄せる可愛らしい乙女にも見えるが、そのやり方が汚いのである。
邪魔な令嬢をジョエルの前で恥をかかせてから、自分は違うと引き合いに出す。
ジョエルがその令嬢を庇って頬を赤らめようものなら、呼び出しては調子に乗るなと牽制をする。
そして自分より上の令嬢達は、エンジェルの名前を勝手に使って脅しているのだ。
それでもジョエルに近付く奴は…。
(……嫌なやり方よね)
自分以外がジョエルに近付くことは基本的に許さないスタンスである。
ライバルを蹴落とす方法がフェアではない。
自分本意な恋愛は周囲を不幸にしてしまう。
(何事もやり過ぎは良くないわ)
そんなアリアもジョエルの前では可愛い仔猫ちゃんである。
アリアの性格が透けて見えているジョエルは、ハッキリと求愛を断り続けているのだが、アリアは意地になっているのか聞く耳を持たないのだそうだ。
(追いかければ追いかけるほど、男は逃げていくのよね…)
早く気付いて目を覚ますのを願うばかりであったが、強引な態度は今日まで続いている。
そして学園に入る前からイワンとアリアはクリスティンの反応を見ながら、見下して遊んでいた。
トドメを刺して追い詰めたイワンと、安定してクリスティンを馬鹿にし続けたアリアには、今後近付けないように牽制して一泡吹かせておくのがいいだろう。
そんな事を考えていると、次々に声を掛けてくる令嬢や令息達。
それを二年前のデータと顔を擦り合わせていく。
クリスティンが痩せたことに気付くものは居ない。
「どこの御令嬢でしょうか?」
「初めまして、是非僕と彼方で話を…」
「素敵なドレスですわ」
そんな声がチラホラと聞こえてくる。
やはり見た目は大切だ。
何故なら自分を表す最も分かりやすいものだから。
大きく息を吸い込んで、自信たっぷりに微笑んだ。
「ーーークリスティン・アインホルンですわ」




