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⑤⑤ オスカーの逆転劇(3)


自分がどれだけ幸せで恵まれているのかなんて、考えたこともなかった。

全てが当たり前で、必ず誰もが持っているものだと思っていた。


彼女達の置かれていた環境や、話を聞いた事で自分が無意識に食べていた食べ物の大切さを知る事が出来た。


その日を境に変わっていった。


どうしても野菜が苦手で食べられなかった。

するとアイラとシェイラは料理を作ってくれた。

指に沢山絆創膏を張りながら、大っ嫌いな野菜を克服して欲しいと心を込めて…。


そんな純粋でどこまでも一生懸命な二人の気持ちに応える為に、その日大嫌いな野菜を口にしたのだった。


今ではアイラとシェイラに野菜を突っ込まれても平然と口を動かせる程に成長した。


とにかく二人は献身的に動いてくれた。


それから二人のような環境にいる人達を助けたいと強く思うようになった。

そしてトビアスの仕事について真剣に考えるようになり、語学や他国の文化も学べるだけ学んだ。


そしてトビアスが話せない言語を学ぶことで貿易の幅を広げて利益を出していった。


その代わりにアインホルン家の食糧船に護衛をつけ、従業員達の賃金を上げて奴隷船や怪しい船を見つけたら積極的に摘発や救助を頼むようにお願いしていた。


(……少しでも、自分の手の届く範囲は誰かを助けよう)




そして二年ぶりの舞踏会。


書き込んだ二年前のメモを元にクリスティンが作成した紙を馬車の中で読み返したお陰か、すんなりと状況を把握する事が出来た。


今まで自分を爪弾きにしたり、馬鹿にする言葉を口にしなかった令嬢は、この場でたった一人だけだ。

そしてその令嬢こそが目的の人物である。


(さて…姉上に言われた通り気を引き締めていかなきゃな)


空いたグラスを置いて、伸びた髪を掻き上げてからニコリと令嬢達に笑みを向ける。

それをきっかけに集まる令嬢達から「名前を教えて」とせがまれて、微笑んでからゆっくりと口を開く。



「オスカー・アインホルンです」



目を細めて答えると今まで馬鹿にしていた令嬢達はたじろいで、気不味そうにしながらも何食わぬ顔で笑みを浮かべる。


令嬢達の視線を独り占めしていた為か、悔しそうに見ていた令息達も驚きに声を上げた。

その後の切り替えは早いもので媚を売り、褒め称える言葉を並べ始める。


敢えてその言葉に乗った。

この頭が空っぽな奴らに、今から自分の有用性を示さなければならないからだ。



「そうだね……今はミーレ語を習得したからワイドマーン語と、父が話せないスーレス語を勉強中なんだ」


「素晴らしいですわ…!」


「つい先日まで、母とシャンデラ王国の言語をどっちが先に習得できるか競争していたんだ」


「あんなに難しい言語を……」


「まぁ結局、負けちゃったんだけど」



令嬢達に柔らかく対応していく。

クリスティンと同じハニーブラウンの髪がサラリと流れた。

モスグリーンの瞳が細まるたびに令嬢達はうっとりと頬を染める。



「それに、困っている人達を救いたくて積極的に動いてるんだ」


「素敵ですわ……オスカー様」


「オスカー様のタイプはどんな方なのですか?」


「そうだなぁ……人を馬鹿にして笑う奴と見た目で態度を変える奴は苦手かな。すぐに手のひらを返す人間は全く信用できない」


「「「!!!」」」


「………本当に反吐が出る」



そう言って満面の笑みを浮かべた。

今まで熱い視線を向けていた御令嬢達は一斉に口籠もる。


アイラとシェイラ効果も切れてしまい、我慢出来ずに嫌味が飛び出してしまったようだ。


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