⑤④ オスカーの逆転劇(2)
「貴方の強みは?」「この家を継ぐにあたって必要な事は何?」クリスティンの言葉にゾッとしたものを感じた。
ずっと目を逸らしていた現実を目の前に突き付けられたからだ。
そしてそんな自分に対して、クリスティンは秘密兵器といってアイラとシェイラを連れてきた。
(……こんな奴らが何の役に立つんだ)
最初は彼女達を冷たくあしらっていた。
それでもめげずにアイラとシェイラは「一緒に頑張りましょう!」と言ってくる。
そんな二人は仕事の為に優しくしている事を知っていた。
(姉上に頼まれただけの癖に……少し冷たくすれば諦めるだろう)
しかし二人は、いつもニコニコしながらオスカーに纏わりついてくる。
二人と並んでいるとオスカーは自分の容姿と比べてしまい情けない気持ちになった。
(……腹が立つ!!)
変えられない現状と自分自身に一番苛立っていることに、もう気付いていた。
アイラとシェイラがオスカーの側で過ごしてから一週間程経った頃。
いつものように、ご飯を食べていた時だった。
「ご主人様、今日は一緒に歩きませんか?」
「少しだけでも夕食の量を減らしてみませんか?」
アイラとシェイラのしつこさに腹の虫の居所が悪く苛々していた為感情のまま、料理が乗った皿をひっくり返したのだ。
パンが床に転がり、肉や魚がテーブルから転げ落ちてソースが絨毯に染み込んでいく。
(しまった。やり過ぎた……)
さすがに謝ろうとした時だった。
アイラがそのパンを拾い、シェイラがぐちゃぐちゃになった料理を素手で拾い上げたまま動かなくなってしまった。
(片付け方が分からないのか?いや、そんな……まさか)
料理を持ったまま止まってしまった二人に、焦って声をかける。
「……お、おい!」
「………」
「……っ」
何の反応も示さないアイラとシェイラ。
いつもならば何を言っても笑いながら素直に返事をするのに…。
オスカーが困惑していると、アイラがパンを手に持ちながらポロポロと涙を流した。
「このパンでどれだけの子供が救われるのかな…」
シェイラが悲しそうに目を伏せた。
「こんなに美味しいものを毎日食べれるご主人様は、世界一の幸せ者ですね」
食べ物を手に震えるアイラとシェイラを呆然と見つめていた。
二人が大切そうに、名残惜しそうに手に持っているものは、何も考えずに口に放り込んでいたものだったからだ。
落ちた食べ物を泣きながらゴミ箱に捨てたアイラと、震える手で片付けるシェイラ。
お腹が減っていたことも忘れて、二人に問いかけた。
「詳しく説明してくれ…」
アイラとシェイラは手を洗い涙を拭くと、静かに口を開いた。
奴隷として連れて来られた二人の故郷はとても貧しく、毎日食べる物に困るほどに困窮していたのだという。
そんな過酷な環境のなかで、互いを支え合いながら困難を切り抜けた。
ところが、見目が良かったアイラとシェイラは仲間に裏切られて奴隷商人に売られてしまったのだ。
命懸けで逃げ出したところ、クリスティンに保護してもらったのだという。
温かい布団で眠れて美味しいご飯をお腹いっぱいに食べられる幸せを毎日を噛み締めていた。
クリスティンに協力してもらい、故郷の子供達が飢え死にしないように給金を使い、食糧と綺麗な水を送っているのだという。
「貧しい故郷と自分達を助けてくれたお嬢様の為に…」
「雇ってくれたアインホルン家の為に、与えられた仕事を一生懸命こなしたいのです」
アイラとシェイラの言葉を聞いた時、自分が恥ずかしくて居た堪れなくなった。




