⑤③ オスカーの逆転劇(1)
エラの高笑いが会場に響き渡る少し前ーーー
「あの素敵な令息はどちらの…」
「あんなかっこいい方、見たことないわ!」
「声を掛けてみましょう?」
「ちょっと!貴女が掛ければいいでしょう?」
周囲には自然と人集りができていた。
(見た目を変えるだけで、こんなにも対応は違うのか)
余りの煩さに溜息を吐いた。
そんな憂いを帯びた表情のにすら、キャーキャーと騒ぐ令嬢達の声…。
飲み物で喉を潤しながら、冷静に周囲を観察していた。
(俺がオスカー・アインホルンって気づいた時に、どんな反応をするんだろうな)
最初は抵抗していた"ダイエット"。
しかし今は体も軽いし、ベッドで眠るのも楽になった。
変化することに嫌悪感しかなかったが、今はその変化が楽しくて堪らないのだ。
勉強と同じで、鍛えれば体は必ず応えてくれる。
以前、周りには常に美味しい食べ物があった。
物心ついた頃から食べることが大好きだった自分にとって、クリスティンの提案は地獄のような宣告だった。
大好きな食べることを我慢してまで、痩せる意味などありはしない。
病気になると言われたとしても、あんなに太っているトビアスですら病気一つしていないのに、自分の身に何かが起こるなんて思えなかったのだ。
だから周囲の変化に抵抗し続けた。
困惑するシェフに命令して、クリスティンの特別メニューではない、いつもと同じ料理を作らせた。
ただ、当たり前のように食べていた料理が、素直に美味しいと感じなくなってしまった。
エラやトビアスがダイエットを頑張っている中、気を紛らわす為に本を読んでいた。
詰まらない現実から解き放ってくれるのは食べ物と本だけだからだ。
自然と知識はついていくが、どこか満たされない日々が続いた。
ダイエットを初めて一年、家族が十キロ以上痩せた中、自分が落とした体重はたったの五キロだった。
トビアスとエラとクリスティンは、以前と見た目が違っていた。
けれどやはり三人が痩せようとする意味が分からなかった。
(何故苦労と我慢をして、喜んでいるんだ?)
そして舞踏会に行っても、状況はいつもと同じだった。
一人で料理を食べる退屈なパーティーである。
周囲の令息や令嬢は煌びやかな衣装に身を包み、楽しそうに談笑していた。
今も根深く残る悲しい記憶。
幼い頃、仲良く遊んでいた友人達は、次第に一人だけを除け者にし始めた。
オスカーが理由を尋ねると「見た目が周りと違うから」それだけだった。
(見た目がそんなに大事かよ!!だったら俺は一人でいい)
羨ましくないと言い聞かせた。
どうでもいいと、下らない付き合いだと思い込んだ。
(何だよ、あんなもの全て無駄なのにっ!)
けれど心の何処かで思っていた。
(こんな自分が、大嫌いだ…!!)
ダイエットなんて下らないし、意味がない。
そう噛み付くとクリスティンはアインホルン家を継ぐ為には何が必要かを問いかけられた。
本を一ページ読むだけで熱を出すクリスティン。
いつも王子様に憧れて夢の中で生きているようなクリスティンの大きな変化を見せつけられて狼狽えた。
漠然と自分がアインホルン家を継がなければならないという未来のビジョンがあった。
けれど人と話すのがあまり得意ではない自分にとって、アインホルン家の家業は気の進まないものだった。
(いつかやればいい……人と上手く話すのなんて誰でも簡単に出来るはずだ)
しかし、クリスティンは甘えを容赦なく抉り出した。




