⑤② エラの逆転劇(4)
「とても着心地がいいのよ?初めは驚いたけれど気に入ったわ」
「ありがとうございます!」
「これはわたくしの為に作られた特別なドレス……貴女達が作るドレスは新しい風を吹き込んでくれる。マーリナルト王国の代表的なドレスになるわね」
「嬉しいですわ!ヘルマン公爵夫人」
ヘルマン公爵夫人が、ドレスを褒めているのを聞いてエルプ侯爵夫人達は押し黙る。
「次のパーティーにもお願いしようかしら」
「まぁ…勿論ですわ!!エルプ侯爵夫人、ヴェーバー伯爵夫人、サール男爵夫人、チナルド子爵夫人は、私達が作ったドレスは気に入らないようですし……とても残念ですわ」
「「「………!!」」」
「折角、ヘルマン公爵夫人も気に入って下さったのに…」
「そうね……王妃様にもお勧めしたいわね」
「是非、お願い致します。オクターバ侯爵夫人と共に手掛けた甲斐がありましたわ」
その言葉に即座に焦りを見せたエラと敵対していた夫人達。
今着ているドレスは、オクターバ商会にオーダーしたものだからだ。
エラの唇が綺麗な弧を描く。
「ああ、そうそう……オクターバ侯爵夫人に聞いたのですが、一部のマナーの悪い御婦人達が納期を急かしたり、順番を守らずに自分のドレスを優先しろ……でなければ店に圧力を掛ける、悪い噂を流すって脅しているんですって」
「「……っ」」
「それは見過ごせないわね」
「ごきげんよう。アインホルン辺境伯夫人、ヘルマン公爵夫人」
タイミングを見計らったかのように現れたオクターバ侯爵夫人が輪の中に合流する。
「オクターバ侯爵夫人、ごきげんよう……丁度アノ話をしていたのよ?是非此方にいらして」
「ああ………アノ話ですわね」
その視線は明らかにエルプ侯爵夫人達を指している。
「今、貴女のお店に来る迷惑な"ある御婦人達"の話をヘルマン公爵夫人に聞いて頂いていたところなの」
「そうなんですよ!ウチを一番に優先しろ!豪華に仕上げろって煩くて……先に他の方々が注文した分もあるのに、とても迷惑なんです」
「あら…そんな恥知らずな御婦人が居たとは驚きだわ」
「ーーー待って下さいッ!」
「ちっ、違うんです…!ヘルマン公爵夫人」
「そうです!これは何かの間違いですわ!!」
エラ達は"ある御婦人達"と言ったのにも関わらず、エルプ侯爵夫人達は焦ったように言い訳を繰り返している。
突然、会話に割り込んできたエルプ侯爵夫人やヴェーバー伯爵夫人を睨むように見ているヘルマン公爵夫人の顔が一気に険しくなる。
「私達はそんな事、言っておりません!」
「そうです!言い掛かりも甚だしいですわ」
「それにヘルマン公爵夫人は何を着ても似合いますから…!」
「……」
「そ、その通りですわ!」
「先程………"あんな下品なドレスは着ない"と聞こえたけれど」
ヘルマン公爵夫人の言葉に夫人達は息を止めた。
その重圧に縮こまり小さく震えている。
「少し……身の振り方は考えた方が宜しいんじゃないかしら」
「…ッ!」
「ぁ……」
「貴方達はオクターバ商会のドレスもアインホルン家が作り上げたドレスブランドも着る資格がなさそうね」
「……そんな!!」
「わ、わたくし達は…」
「その煩い口をいい加減閉じて頂戴……さぁ、恥知らずは放っておいて行きましょうか」
「はい、そうですわね」
「行きましょう」
「うちの素晴らしいドレスを着てもらえなくて心の底から残念だわ…」
「「「…………」」」
「次の舞踏会、素晴らしいドレスを期待しておりますわ」
身の立場を案じて肩を震わせる者、唖然と立ち尽くす者、涙をハラハラ流す者、余りの恥ずかしさに顔を真っ赤にさせる者……エラは後ろを振り向いてニタリと微笑む。
(………ざまあみろ)
長年、笑われ続けていたエラの努力が全て報われた瞬間だった。




