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⑤① エラの逆転劇(3)



今回は自分達のドレスの話題の全てを取られたことが不満で仕方ないのだろう。

先程追い払った御婦人もすぐに手のひらを返して、ヴェーバー伯爵夫人とエルプ侯爵夫人を援護する。


この裏切りの早さが社交界の恐ろしいところだ。



「少し痩せたからって偉そうに…!」


「金を掛ければ何だって出来るわよ」


「あんな生地を使ったドレス、マーリナルト王国では流行るわけないわ」


「私は絶対着ないわ!あんな下品なドレス…ッ」



御婦人達は心配そうに此方を見ているが、ヴェーバー伯爵夫人やエルプ侯爵夫人を完全に居ないものとして無視している。


次々に攻撃する言葉にも、余裕の笑みを崩さない。

何故かと言えば、マーリナルト王国の社交界で絶対的な味方を手に入れたからである。




「あら…そうかしら?わたくしは素敵だと思うけれど」




エルプ侯爵夫人の背後から、聞き覚えがある重みのある声が響く。



「へ、ヘルマン公爵夫人ッ!?」


「ヘルマン公爵夫人、お久しぶりですわ」


「……えぇ、アインホルン辺境伯夫人。貴女がプレゼントしてくれた"ブルーローズ"のドレス、とても素晴らしいわ」


「!?」


「っ…!?」



エラは言われた通りに、ドレスのサイズを伺いにいったり、公爵家に顔を出しながらヘルマン公爵夫人との距離を縮めていった。


初めは怯えてしまい上手く話せなかったが、次第に夫人がどのような性格なのか理解するうちに緊張が溶けていき、普通に話せるようになったのだった。

エラと同じで勉強家の女性であるが故の悩みがあったヘルマン公爵夫人。

共通点が見つかれば、流れるように自然と仲は深まっていく。


ヘルマン公爵夫人のドレスはクリムゾンレッドの伸縮性のある生地を使った、流れるようなボディーラインが引き立つマーメイドドレスである。

このドレスの生地は刺繍を入れてしまうと破れやすくなってしまう為、同色のレースを使っていた。


クリスティンはヘルマン公爵夫人が毎回舞踏会に出席する際にはデコルテを出しているドレスを着ている事に気付いたのだ。

という事は、ヘルマン公爵夫人はデコルテを出すデザインのドレスが好き、もしくはその部分に自信があるという事だ。


そこで細身なヘルマン公爵夫人の体型にピッタリと合うタイトなシルエットを選択した。

ドレスの色は、敢えて娘のエンジェルが好む赤系の色を使った。

そこにマーリナルト王国の伝統のレースを縫い付けて、華やかさを加えていく。

そして大胆かつ上品なデザインのドレスをヘルマン公爵夫人の為に時間を掛けて作り上げたのだった。




初めてドレスの完成品をヘルマン公爵夫人に見てもらった際、夫人は大きく目を見開いた後、難しい顔をして首を振った。


「私には派手すぎるわ」


そんな言葉を残して…。


「一度だけ、一度だけ着用してみてください…!わたくし達がヘルマン公爵夫人の為だけに作ったドレスなのです」


けれど一度断られただけで簡単に諦める訳にはいかなかった。

そんなクリスティンとエラの熱意に、押されるような形で夫人は着替える為に立ち上がった。


もしヘルマン公爵夫人が気に入らなくとも、着てくれるまで作り続けるつもりでいた。

今回のエラの逆転劇において、ヘルマン公爵夫人の協力は必要不可欠なものである。



ドレスを着用して現れたヘルマン公爵夫人に周囲は歓声を上げた。


鏡で自分の姿を見たヘルマン公爵夫人の瞳が大きく揺れ動く。

そして後ろから娘であるエンジェルが「お母様、とても美しいですわ」と嬉しそうに呟いた。



「……とても、気に入ったわ」



ヘルマン公爵夫人は静かに頷いた。

そしてエラと共に手を合わせて喜んだのだった。



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