④⑥ 鳴り響く始まりの鐘
ーーーー半年後
ついに迎えた舞踏会の日。
馬車に乗る前、アインホルン家の表情は以前とは全く違うものだった。
家族全員が重々しい表情であるが、纏っている闘気は半端ではない。
背中にはメラメラと炎が燃え上がっている。
「さぁ……行きますわよ」
その掛け声と共に、家族全員が大きく頷いた。
「ウフフ……とっても楽しみね」
「綺麗だよ…エラ」
「昔に戻ったようね、アナタ」
「君は本当に輝く宝石のように美しく聡明で……あの時もこうして私の心を一瞬で奪ったんだ!」
「あぁ、私も同じ気持ちよ…!もう貴方しか見えないの」
「エラ…!」
「……トビアス様」
「お父様、お母様も……イチャイチャするのは舞踏会が終わった後にして下さいませ」
「あら……」
「………ゴホンッ」
パンパンと鳴る手の音に合わせて、二人は顔を見合わせてから頬をほんのりと赤く染めた。
まるで付き合いたてのカップルのような初々しさである。
体型が戻るにつれて、トビアスとエラの気持ちは徐々に盛り上がっていき、今では皆の前でも止まることを知らない。
予感では、そろそろもう一人くらい弟か妹が出来るのではないかと思っている。
「確かにお母様は最高に美しくて、お父様は最高にクールなのは分かりますが…」
「クリスティン…!」
「気を抜かないで下さいませ!今日は長年の努力が報われる日ですわ」
「そうね…そうだったわ!」
「エラ、続きは帰ってからだ」
「もう……!トビアス様ったら」
「さぁさぁ…今からもう一度、二年前の舞踏会に書いた紙をじっくりと読み返して下さいませ」
そう言って二年前の舞踏会で言われた事や、相手への文句が綴られた紙をトビアスとエラ、オスカーに渡していく。
トビアスとエラの二人は額に青筋を立てながら、自分が書いた紙を読み返し始めた。
馬車の中にはトビアスの重たい舌打ちと、エラの高速の貧乏揺すりの音が響き渡る。
最終確認を行う為にメモに目を通す。
(全てが滞りなく進むように祈るばかりね…)
オスカーは紙をグシャグシャに握り潰した後、訴えかけるように口を開いた。
「姉上、アイラとシェイラが俺の帰りを待ってるんです…!」
「……えぇ、そうかもね」
「舞踏会で邪魔な奴らを蹴散らして、踏み潰したら早くアインホルン家へ帰りましょう!!」
「オスカー……いい加減にアイラとシェイラ離れしなさいよ」
「無理です」
アイラとシェイラの働きにより、オスカーの変貌振りは想像を遥かに超えた良い結果となった。
二人が喜べばオスカーのやる気が上がる。
二人が素晴らしいと拍手を送るとオスカーのモチベーションが上がる。
オスカーは褒められながらグングンと成長していった。
そしてアイラとシェイラは、褒められる為と美味しいご褒美の為に頑張るのである。
プラスのループはオスカーとアイラとシェイラの成長を促していく。
アイラとシェイラの『猫耳美少女と一緒にダイエット~褒めてやる気が爆上がりだニャン~』作戦でオスカーは怒涛の追い上げを見せた。
もうヤギのメェーンを使って脅しながら、野菜を食べろと言う必要もない。
何故ならば二人の働きかけにより、オスカーが「死んでも食べねぇ」と言っていた草…もとい野菜が食べれるようになったのだ。
アイラが「あーん」と言えば、素直に口を開けるオスカー。
シェイラも容赦なくシェフが食べ易く調理してくれた野菜をオスカーの口内に突っ込んでいた。
そんな二人が頑張る理由は、働きに応じて甘いデザートのボーナスが出るからである。
「アイラ、シェイラ……俺、頑張るから」




