④⑤ 最後に笑うのは
「本当は然るべき時期に君に告白するつもりだったけど、もういいや……」
「そんなこと…!」
「それに君が表舞台に出たら争いになってしまうだろう?僕も早めに動かなくちゃね」
「は……?」
「言っただろう?余所見させないように頑張るからって…」
ジョエルは唇を親指でそっとなぞってから、ゆっくりと腰を上げる。
そして、のけぞっていたクリスティンの手を引いて起こしてから、少し乱れたドレスを軽く整えると、いつものようにニコリと微笑んだ。
「あぁ、あと君に意地悪したことは認めるよ。病気と言って嘘をついてまで僕に会いたくなかったのかと思うと悔しくてね」
「……何の話を」
「コーリー・オクターバやエンジェル・ヘルマンには会っていたのに……僕だけ仲間外れにするなんて寂しいだろう?」
「ーーッ!?」
情報が漏れないように慎重に動いていたはずなのに、何故ジョエルが交友関係を知っているのだろう。
「これからお互いに忙しくなるね」
「ジョエル!わたくしは…っ」
「君が僕との関係に対して前向きになってくれて嬉しい限りだよ」
「なっ……!」
ジョエルの突然の反撃に何とか反論しようとするものの勢いは止まらない。
「………僕を煽った事、後悔しないでね?」
今から可愛いジョエルをベロベロに籠絡して愛でようと思っていたのだが、どうやら簡単には落ちてはくれないようだ。
それどころか容赦なく噛み付いてくるではないか。
後ろに控えていた侍従に声を掛けたジョエルは、そっと体から離れると、先程とは一転して手の甲に優しく唇を寄せる。
「じゃあね、クリスティン」
「待ちなさいよ!」
「何?」
「言い逃げは許さないんだから…!」
「クリスティンこそ、もう逃げられないけど大丈夫?」
「……!?」
その言葉にポカンとしていると頬に、もう一度唇を落としたジョエルは、いつものように笑みを浮かべて颯爽と去っていった。
「……僕との未来を、前向きに考えておいてね」
そんな言葉を残して…。
ジョエルを見送る事も忘れて暫く椅子に座っていたが、言われた言葉達を思い出していくうちに苛立ちが溢れ出る。
(なんて生意気なガキなの…!!)
以前のクリスティンの前では、あんなに紳士的で優しくて王子様のように振る舞っていたくせに、この豹変っぷりはどうした事だろうか。
余裕たっぷりの笑みを浮かべているジョエルの顔を思い出すだけでムカムカする。
(なぁにが「後悔しないでね?」よ!!それはこっちのセリフでしょう!?わたくしを舐めるんじゃないわよッ!!)
感情を表に出してしまった自分にも腹立たしい気持ちもあるが、十五歳の青年にペースを乗っ取られてしまったのは悔しい限りである。
今回は予測不可能な言動に翻弄され、若さと勢いに押し切られてしまったが、このままで終わる事はない。
(こうなったら、たっぷりと惚れ込ませてヒィヒィ言わせてやるわ……!!待ってなさい、ジョエル・ルカーナ!!)
ジョエルが"クリスティン"を大切に思っていることは間違いない。
どう考えても此方が有利ではないか。
「……フフッ」
訳ありの部分を置いておいても高い利用価値がある。
気持ちを切り替えて、自分の目的を果たす為に頑張るだけだ。
学園に入る前の舞踏会で、どれだけ存在を大きく示せるか。
ジョエルと共に舞踏会に出席すれば、注目は更に集まる事だろう。
後半年と迫る舞踏会はアインホルン家にとって集大成となるのだ。
「最後に笑うのは、このわたくしなのよ……!!」
今日も屋敷には高笑いが響いていた。
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