③⑥ ありのままを愛せばいい
「新しい一歩を踏み出したことで、もう何かが変わっているの……それに今までの努力が無駄になる事は絶対にないわ」
クリスティンになる前、新人キャバ嬢だった時は"憧れのキャバ嬢"と同じメイクや髪型、"売れている先輩"のキャラ作りや営業方法を真似して売り上げを伸ばそうとしていた。
しかし場内は入っても本指名に繋がらない。
フリーバックが出来ずに売り上げが伸び悩む。
そんな事が続いて落ち込んでいる時に、ある常連のお客さんが声を掛けてくれたのだ。
『君には君の良さがあるんじゃないの?』
その時は笑って受け流していたが、ふと家に帰ってから改めて鏡を見た。
冴えない顔をしている鏡の自分に問いかける。
可愛いと思って買ったドレスは果たして自分の魅力を活かせるものなのか。
このメイクのやり方では自分の顔の良さを消していたのではないか。
全く違う性格を作り込んだとしても偽りの関係は長くは続かないのではないか。
無理をしている事に気が付いたのだ。
それから"自分"に目を向けて良い部分と得意な事を見つけた。
苦手な部分はどこなのか…それを認めた上で少しでも好転させられる方法を探した。
それからは、ありのままの自分を受け入れて自分に一番似合うものを選んだ。
人の真似が悪いとは言わない。
何かに気づくキッカケやヒントを貰えることもある。
試行錯誤して迷う事もあるけれど、行動しなければ何も始まらない。
努力を積み重ねて、成功に結びついた時に初めて自信に繋がるのだ。
「良いところをグングン伸ばして伸ばしまくりましょう!」
「はい…!」
薄っすらと瞳に涙を浮かべたコーリーは静かに頷いた。
それからコーリーには定期的にアインホルン邸に来てもらい、一緒にトレーニングをしたり、なりたい自分について前向きな意見を交換したりした。
やはり若さ故の真っ直ぐさと純粋さは素晴らしい。
コーリーに刺激を貰っていた。
元々努力家のコーリーは言う事をスポンジのようにぐんぐんと吸収して成長していた。
以前のクリスティンはコーリーと愛を育みつつ、互いに傷を舐め合っていた。
しかし今回はコーリーを同志として、互いを高め合う関係に持っていったのだ。
それにクリスティンには、コーリーを手元に置く大きなメリットがあった。
コーリーとの付き合いをキッカケに、アインホルン家とオクターバ家は家族ぐるみの付き合いになったのだ。
クリスティンがデザインしたドレスに、エラが異国からマーリナルト王国にはない新しい生地を輸入する。
そしてコーリーに色合いや組み合わせを見てもらい、コーリーの父親であるオクターバ侯爵とハイラーに製作を依頼していた。
クリスティンになる前に毎日着ていた戦闘服でもあるドレス。
新作は必ずチェックしていたし、デザインは大体頭に入っている。
この世界ではロングドレスが主ではあるが、体のラインを綺麗に魅せる為の知識は豊富にある。
それを生かさない手はない。
そのドレスへのこだわりが、この世界では存分に役立ったのだ。
それにクリスティンは貴族で、アインホルン家は金がたんまりとある。
なので材料費も気にせずに、豪華なドレスを作り上げる事が出来るのだ。
(ウフフ……なんて素晴らしいの!使えるものは全部使って最高のものを作り上げるのよ!!)
コーリーは次々に生み出されるドレスのデザイン画に驚いていた。
オクターバ侯爵夫人から「貴女のドレスはきっと革命を起こすわ」と、お墨付きも貰った。
何よりマーリナルト王国の王都に店を構えるオクターバ侯爵夫人は情報通であり、良い関係を保てることはアインホルン家の味方になり利益となるのだ。




