③④ 燻る想いは
「コーリー、貴方はどういう風に変わりたい?」
「僕ですかっ!?」
「えぇ、そうよ!手紙にも書いてあったけど、わたくしはコーリーの口から聞きたいの。貴方の未来を…なりたい姿を教えて頂戴」
「僕は……兄さんみたいになりたいんです」
「お兄様、ね…」
「とても立派で、兄をすごく尊敬しているんです。服やドレスを作るのが天才的で……僕なんて足元にも及びません」
「……」
コーリーはボロボロの両手を見つめながら答えた。
何故、こんな風に自分に対して自信がなく消極的なのか疑問ではあったが、どうやら出来のいい兄を尊敬している反面、コンプレックスを感じていたようだ。
オクターバ侯爵家は貴族御用達の服飾関係の店を手がけている。
最初は頑張って兄のハイラーに張り合っていたらしいが、圧倒的な才能を前にしてコーリーは絶望感に苛まれていたのだそうだ。
「………何をしても、敵わないんです」
「……」
「そのうち自分がダメな人間に思えてきて……こんなに頑張っているのに、追いつけないから」
そしてトドメは幼馴染であるアリアに「アナタは何をしてもハイラー様を越すことなんて出来ないわ」と言われたのをキッカケに自分に自信を無くしてしまったらしい。
アリアとはジョエルの婚約者の座を狙っているアリア・ヴェーバーのことである。
まさかアリアとコーリーが幼馴染だとは思わずに驚いていた。
アリアは地味でいつもオドオドしているコーリーを嫌っているのだそうだ。
そしてハイラーかコーリーはアリアの婚約者になる予定だったが、キッパリと拒否されたのだという。
その際、アリアは「コーリーだけはわたくしの相手に相応しくない」と言ったのだという。
「……それから何度か違う御令嬢と顔を合わせてみたんですが上手くいかないんです。相手が詰まらなくないように気を使うほどに緊張してしまって…!」
「そうなのね」
「自分は何をしても駄目だと分かっているのに、兄の背中を追いかけることを止めてしまえば、僕自身に価値が無くなるような気がして……こうして無駄な努力を続けてしまうんです」
ハイラーに追い付きたくて諦めきれずに、ご飯を食べる間も惜しんで勉強しているのだそうだ。
コーリーがマッチ棒のように痩せている理由も分かった。
そして燻った気持ちを抱えたまま悩んでいた時にクリスティンと出会った。
コーリーは容姿に自信があり、気の強そうな令嬢達に声を掛けることも出来ずに、自分と同じ匂いを感じたクリスティンに目をつけたようだ。
そして前向きな言葉に感銘を受けたコーリーは「変わりたい」「見返したい」という気持ちを強く持つようになり、約束の日まで我慢出来ずにその日の晩に自分の気持ちを手紙に認めたようだ。
「僕はどうすれば、変われるんでしょうか」
「先ずは変わろうと思った前向きな気持ちを褒めてあげましょう!」
「は………?」
コーリーはその言葉に唖然とした。
今まで思っていた考えとは、全く違う言葉が返ってきたからだろう。
「自分を認めて好きになるの」
「認、める……?」
「えぇ、そうよ。貴方はとても頑張っている。それは素晴らしいことだわ」
「でも僕は、そんな……」
「でもねコーリー、貴方は貴方自身を否定するけれど、わたくしは貴方が積み重ねてきた努力には必ず意味があると思うの」
「……ッ!」
「行動力がある貴方は簡単に変わることが出来る。自分を卑下することは無いわ」
「クリスティン、様……」
「クリスティンと呼んで。今日からわたくし達は同じ目的を持った同志よ?」
「はっ、はい…!」
「どうせならお兄様を驚かせて、幼馴染を見返してやりましょう?」




