③③ 改造計画
「ーーークリスティン!」
いつものようにジョエルとお茶をしていると、焦った様子の令息が訪ねてくる。
「ごめんねっ……連絡もなしに!」
「あら、どうかしたの?」
「急ぎの仕事があって…!君に確認してもらわなくちゃ進まないと思って来たんだ」
「まぁ、わざわざありがとう!」
それは以前、クリスティンの婚約者だったコーリー・オクターバである。
舞踏会で磨けば光るものを感じた為、コーリーに自分を変えないかと声をかけた。
しかし約束の日を待たずに、コーリーから分厚い手紙が届いたのだ。
十数枚もの紙にコーリーの想いが書き込まれており、返事をするのが面倒くさくなった為、コーリーを屋敷に呼び出して、予定より早く調教……いや、改造していくことになったのだ。
どうやら思っていたよりもずっと"自分を変えたい"と強く願っていたようだ。
現段階では、コーリーの性格を直ぐに変えることは不可能だ。
まずは変化が分かりやすい見た目から変えていく。
目元に掛かっている前髪をカットして横に流す。
ボリュームがあって羊のようにモコモコしている髪を梳いていく。
眉毛を整えて、弛んで所々汚れのあるシャツを脱がせて、皺一つない真っ白なシャツに変えていく。
オスカーの服を借りる為にアイラとシェイラを呼んだのだが、初めて二人を見たコーリーは顔を真っ赤にさせて気不味そうに目を逸らした。
コーリーが相当ウブなのか、アイラとシェイラの威力が強いのか。
(検証が必要ね…!)
可愛すぎる猫耳美少女二人を見送ってから、ガサガサの唇と手に保湿剤を塗るように指示する。
特にコーリーの指先は、ガサガサでささくれて血が滲んでいた。
やはり男性は手が綺麗なことに越したことはない。
仕事が出来る、女性の扱いが上手い……そんな男性は指先まで綺麗にしようと気遣っていることも多いからだ。
接客する時も着ている服、鞄や靴や指先…隅々までチェックしていたことを思い出して懐かしさを感じていると、全て指示通りに整えられたコーリーが部屋の中に入ってくる。
それだけでも素材は悪くないので随分と垢抜けた姿に、満足気に鼻息を吐き出した。
「ふふ、どうかしら?」
「こ、これが僕ですか!?」
コーリーの前に鏡を用意する。
テレビの変身番組のような変貌ぶりに鳥肌が立つ。
(自分の才能が怖いわ…!)
恍惚として喜んでいると、苦笑いをしながらも何度も鏡で自分の姿を確認していた。
学園でクリスティンからコーリーを奪った泥棒猫…どこぞの子爵令嬢もコーリーの見た目を変えていたが、イワンと同系統で擦れたやんちゃな方向だった。
しかし、今回は万人に受けそうな爽やかな好青年に仕上げたのだ。
それから猫背を直すように意識を向けさせて、会話をする時に目を見て話すことが出来ないと言ったコーリーに、相手に違和感を感じさせないアイコンタクトのタイミングを教え込む。
それが身につくまで、ひたすらアインホルン邸で働く侍女や侍従、トビアスやエラなど幅広い年代や性別で実践を繰り返す。
そして次に会話で失敗するのが怖く、上手く話せずに焦ってしまうというコーリーに、とにかく経験を積ませたのだ。
敢えて、下らない冗談などを言わせて人前で恥をかかせる。
わざと失敗をすることで、脳に"失敗したとしても大した事は起こらない"と刷り込んでいく。
それだけでも感じていた恐怖は半減するものだ。
そもそも自分は恥ずかしくとも相手は何も思っていない事が大半である。




