③② 読めない男
「以前の君も素敵だったけど、今の君はもっと魅力的だね」
「…ありがとう、嬉しいわ」
ジョエルが体型の変化に食い付いたのは初めだけで、すぐにいつもの対応に戻ってしまった。
痩せて綺麗になったことで、少しは積極的な態度で攻めてくるかと思っていたが、予想とは違い、態度も以前と全く変わらない。
サラリとリップサービスも忘れていないところが流石である。
相変わらずカロリーの高そうなお土産を渡されて苦笑いをしてから、ジョエルをいつものテラスに案内する。
「懐かしいな……病気はすっかり?」
「もうバッチリですわ!」
「それは良かった。屋敷全体の雰囲気も変わったみたいだね」
「はい…!皆、頑張ってくれています」
「それはクリスティンが変わった事がキッカケなのかな?」
ジョエルの言葉に僅かに目を見開くと、ニコリと笑みを浮かべている。
思わず口端がピクリと動く。
(感情が読み辛い…何考えているか分からない男って苦手だわ)
ジョエルは感情を隠す術に特段長けているような気がするのだ。
大体、目の動きや口元、手や体から気持ちを読み取ることも多いのだが上手い具合に隠してしまう。
それに中々会話のペースを奪えないのも歯痒い所だ。
(焦ってはだめよ!クリスティン……)
時間を掛けてジョエルの本心を炙り出す方向へと切り替える。
下手にガンガンと攻め立てたとしても警戒心を持たれて逆効果になる可能性もあるからだ。
デッカイ魚は逃げないように、じっくり追い詰めなければ…。
そして他愛のない話をしつつ、何も掴めないまま時間は過ぎていく。
ジョエルは帰るために席を立つ。
「次からは、何が良いかな」
「え…?」
「お土産だよ」
「あの………お気遣いなく」
「いいや、僕が君にあげたいんだ」
随分と機嫌が良さそうである。
「…それと」
「??」
「今度からは以前のように会いに来ていいの?」
帰り際、そう言ったジョエルに断る理由もなく頷いた。
そして言葉通り、頻繁に会いに来るようになった。
次にアインホルン邸に来た時に、ジョエルがお土産として持ってきたのは薔薇の花束だった。
目をパチパチさせて驚いていると「今の君に似合いそうだと思ったから」と言いながら爽やかな笑みを浮かべたのだった。
御礼を言ってから、薔薇の花束を喜んで受け取るフリをしつつ、急いで頭の中で情報を整理する。
(……まさか)
高カロリーのお菓子をお土産に持って来ていたのは、以前のクリスティンが好きだったから…という単純な理由なのだろうか。
(じゃあ花は!?この薔薇の花束に何の意味があるの!?クリスティンがジョエルに薔薇が好きだなんて言ったことあったかしら…)
いまいち目的が分からない。
深く考えれば考える程にジョエルの真意は見えにくくなる。
読めない行動に翻弄されつつも、大人びていて頭の回転が早いジョエルとの時間を楽しんでいた。
王都の情報も何気なくゲットできる事がプラスに働くのだ。
そして此方の話に耳を傾けては、嬉しそうに頷いている。
聞き上手にこの容姿ならば、さぞモテる事だろう。
以前のクリスティンの時と同じように、会いに来ては何も曝け出す事なく爽やかに去って行く。
特に動く様子も本心も見せないジョエルに対して歯痒さを感じていた。
このまま友人として接するのも悪くないが、決定打もないままでは先に進めない。
(そろそろ仕掛けてみましょう…)




