②⑧ 秘密兵器!
「そんな奴らは…!!」
「相手にしなければいい…?本気でそう思ってる?」
オスカーは肩を震わせて顔を伏せていた。
子供には酷な事かもしれないが貴族社会で生き残るためには、それ相応の覚悟と努力が必要だ。
何もしないで跡を継げるほど甘くはない。
クリスティンになってから以前の世界の常識は通用しない為、戸惑ったことも多かった。
しかし変化に嘆いて、悩んでいたって何も変わらない。
適応して自分を変えていかなければ、前に進めないのだ。
「……話を戻すわね。これを見て分かると思うけど、お父様が太り出したのは20代の前半…お母様と結婚してからの幸せ太りよ!!」
「………幸せ太り?」
「そしてお母様が太り出したのは、アインホルン家に嫁いで食の楽しさを知ったのもあるけれど……産後太りが一番の原因かもしれないわ」
「産後、太り…?」
「わたくし達を産んだ後にホルモンのバランスが崩れて、骨盤が歪んだ可能性や筋力の低下もある。それに体重が戻ったとしても体型は戻るかは分からない。ストレスもあるだろうし…」
「あ、姉上…?」
「ゴッホンッ……つまりね!!子供の頃から脂肪がついているわたくし達とはスタートラインが違うのよ」
「……!」
「賢いオスカーなら、もう理解出来るわよね?」
「………はい」
「それに肥満は生活習慣病と呼ばれる二型糖尿病、脂質異常症、高血圧を引き起こして、子どもの頃から動脈硬化は進行するわ!将来的に心筋梗塞や脳卒中を起こすリスクを高める可能性もあるし、脂肪肝や睡眠時無呼吸を起こして、膝や腰などに悪い影響を与えるの……肥満の状態を長く続ける事はリスクがあるって、誰かが言ってたわ!!」
正しくは小児科医の佐藤さんである。
「誰かが…?」
「そう………読んだ、本で読んだの!!」
「姉上が、本を!?」
「わたくし、オスカーの為に苦手な医学書を読み漁ったの…わたくし達の明るい未来の為に!!」
「姉上が……まさか、あの本を一ページ読むだけで熱を出す姉上が、俺の為に苦手な本を読んだというんですか!?」
会話でミスをしてしまっても上手くカバーできたら、それはもう失敗ではない。
そこに姉の弟への愛を上乗せすれば、オスカーを思って動いている事も伝えられて一石二鳥である。
オスカーはあのクリスティンが勉強したという事実に動揺を隠せないのか瞳が揺れ動いている。
「それにわたくし、オスカーの為にとっておきの秘密兵器を用意したわ!!」
「秘密兵器?」
「アイラ、シェイラ…出番よ!!出て来て頂戴」
「「はーい」」
そう言って、クリスティンがパチンと指を鳴らすと何処からともなく現れた美少女二人。
「アイラとシェイラよ!今日から貴方の世話をするわ」
「は……何だよそれ!!」
オスカーの為に用意した奥の手は、父と母の肖像画だけではない。
とっておきの秘密兵器は、猫の獣人のアイラとシェイラである。
シェイラは巨乳のお姉さん系の美女で雰囲気もまったりしている。
栗毛のロングヘアーをふわふわに巻いた、ぽわわんとした天然さんである。
アイラはロリ系の美少女、金色の長い髪をツインテールにしたツンデレのドジっ子さんである。
そういうキャラ設定でお願いしますと、アイラとシェイラに頼んであるのだ。
ちなみにアイラとシェイラの服はメイド風にして可愛さを全面に盛り込んだ。
燕尾服に侍女や侍従達の服、シェフに庭師にetc……。
高級感を全面に押し出したが勿論、機能性も動き易さもバッチリである。
これで屋敷全体の士気も高まるというものだ。
外見を変えれば脳は誤作動を起こして、自然とその服に合うように振る舞い始めるものだ。
どんなにやる気がなくてもドレスを着たら気持ちが引き締まるのと同じである。




