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②⑦ 反発中


フッと短く息を吐き出した。

オスカーは今まで溜め込んだ気持ちを吐き出すように捲し立てる。



「今までのままでいいじゃないかッ!メェーンのように草ばっかり食べて生活するなんて嘘だろうッ!?だって父上は結婚も仕事もして、毎日楽しそうにしているじゃないか!病気だって一度もしていないっ!」


「……そうね」


「姉上が何の為にこんな事しているか知らないけど、迷惑なんだよッ!!」


「……」


「前のッ、前の姉上の方が良かった…!」



オスカーがこう思っている事は、ダイエットを始めた時から態度に滲み出ており分かっていた事だった。

屋敷のシェフも板挟みになって困っていたので、オスカーには今まで通りの食事を出していいと言っていたのだ。


オスカーは屋敷全体の雰囲気が変わった事を不満に思い、変わっていく家族に複雑な感情を抱いて強く反抗していた。


そんなオスカーに、敢えて何もしなかった。


無理にオスカーを押さえ付けてしまえば、反発は激しくなるばかりで、上手く事は進まない。


恐らくオスカーは"気にしていない"と言っても、無意識に同年代の令息や令嬢達から刺激は受けている。

だからこうして、どうにもならない現実に苛立っているのだろう。



「……貴方の気持ちは分かったわ」


「何でも分かってますみたいな態度が腹立つんだよッ!全部思い通りに行くと思ったら…っ」


「オスカー、これを見て」



そんなオスカーの為に用意したものをテーブルへと並べていく。



「……これは?」


「お父様の子供時代、そして学園時代の肖像画よ」



そんなオスカーに対して何も対策を練らなかった訳では無い。


トビアスの昔の肖像画を入手していた。

オスカーがいつ爆発してもいいように、トビアスに用意してもらったのだ。

そしてその切り札を使うのは今日だと判断した。



「や、痩せてる…!?」


「そう……昔のお父様は痩せていたの」


「ーーッ」



オスカーは唖然としながら肖像画を見つめている。

そこには今の面影がまるで無い、細っそりとしたトビアスの姿があった。

例えるならライオンのような雄々しさを持つ、野生的なイケメンである。


トビアスはエラに出会う前は女性をメロメロにしていたと自慢げに話していた。

しかし今の姿からは想像出来ない為に、クリスティンとオスカーは「ふーん」と簡単に受け流していたのだ。



「とある情報筋から入手したのだけれど、お父様はこうなる前はとてもモテたわ…わたくし達は半信半疑だったけど本当の話なの」


「これがお父様だって…?信じられない」


「貴族の令息にしては珍しく、プライドもそこまで高くないから親しみやすかったのね」


「……っ、だから何だよ」


「何よりも語学は堪能、まぁまぁスポーツも出来たの。それにお父様は人を惹きつける才能があるわ」


「………」


「そしてお母様も結婚する前はとても細かった。婚約の申し出は沢山来ていたわ!何より商売をしている家にとっては、お母様の才能は喉から手が出るほどに欲しいものだったの」



エラとトビアスは互いに強く惹かれ合い結婚した。

二人は恋愛結婚の為、今でも仲睦まじい姿を見せてくれる。



「一つ聞くわ、オスカー……貴方には何が出来るの?」


「ッ!?」


「貴方の強みは?」


「……べ、勉強」


「そうね、確かに貴方は頭が良いわ。けれどアインホルン家を引っ張っていくほどの人望はあって?」


「え………?」


「自分が興味ある事を学ぶのも大切だけど、この家を継ぐにあたって必要な事は何?」


「…っ」


「その卑屈な物言いで、笑顔を全く浮かべないまま、他国との交易が上手く出来るかしら?」


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