②③ 昔の王子様
記憶によれば、もうそろそろ出会える筈なのだ。
以前のクリスティンの王子様に…。
「あっ……あの、少しお時間よろしいでしょうか…?」
「……はい?」
(来た、来たわ…!)
振り向くと、そこには…。
「はじめまして……コーリー・オクターバと、申します」
以前のクリスティンの婚約者であるコーリーとの出会いは、この舞踏会だったのだ。
運命的な出会いを妄想していたクリスティンが城の料理をパクパクと食べていた時に、タイミングよく声を掛けてきたのがコーリーだった。
(うっわぁ……垢抜けない令息ね)
もさもさのダークブラウンの髪は天然パーマがかかっているのか、毛先があっちこっちに冒険している。
涼やかな目元は、今は完全に前髪に隠れて見えない。
マッチ棒のようにヒョロヒョロとした不健康そうな体。
ふくよかなクリスティンの横に並ぶと、これまた細さが際立つ。
美しすぎるジョエルを見慣れているせいで、目が勝手に肥えているようだ。
やはりジョエルは色んな意味で別格である。
しかし以前のクリスティンにとって、コーリーは紛れもなく世界で一番かっこいい王子様だったのだ。
(恋って不思議だわ…)
この出会いをキッカケにクリスティンとコーリーの距離が縮まっていくのだが、今はコーリーと恋愛するつもりも、婚約者になるつもりもない。
確かに王子様を求めていたクリスティンにとっては、優しく声を掛けてくれたコーリーは救世主のように見えた事だろう。
それに学園に入る前までは、なかなか良い関係を築けていた。
クリスティンがお菓子を作ったり、オクターバ商会にオーダードレスを作りに行ったりと、概ね順調であった。
思い出してみると温かな雰囲気を持つ、お似合いの二人だったのかもしれない。
しかし、学園デビューしたコーリーは見目が変わった途端、クリスティンと過ごした時間も、築き上げてきた関係もあっさりと捨てて、オーロンナだかオーララとかいう女を選んだのだ。
(まぁ、思春期なんてそんなもんよね…)
過ちを繰り返して成長していく思春期の男女関係。
けれど見た目を理由に振られたクリスティンは心に深く傷が残った。
今のコーリーには関係ない話ではあるが、やはりコーリーはコーリーなので、イメチェンした際のスカした顔を思い出すと腹立たしい。
「チッ…」
「え…?」
「オホホ…なんでもありませんわ!クリスティン・アインホルンと申します」
「クリスティン様、よかったら…お話しませんか?」
「……」
困ったようにヘラリと笑ったコーリーをじっとりと上から下まで値踏みするように眺めていた。
(素材は悪くないのに、勿体無いわね…)
学園デビューした時の顔を見て思っていたのだが、コーリーの見た目は別に悪くはない。
端正な顔立ちをしているのに、野暮ったい見た目のせいでくすんで見えてしまう。
キラキラに輝いているわけではないが、素材が良いので綺麗に整えればなかなか良い線までいく気がするのだ。
どうせならば、あの泥棒猫が変えたコーリーを越えなければ気が済まない。
(絶対に負けたくないわ…)
それに学園に行ってイワン達と連む前に、人の良すぎる性格を矯正して、多少の毒にも負けないように耐性をつけなければ。
未来を憂いて怯えるよりも、敵になる事だけはないように躾ければいいのだ。
(要は、あの女に出会う前に早めに自分に自信がついたら良いのよ!良い男になるように頑張るしかないわね……久しぶりに腕が鳴るわ!)




