② 婚約破棄
学園に入学すると、あんなに優しかったコーリーが急に冷たくなった。
見た目も素行も派手な人達と連むようになり、次第に外見や中身までどんどんと変化していった。
コーリーはクリスティンを避けるようになっていった。
以前のように二人で会える時間は殆ど無くなっていた。
学園で話しかけても平気で無視をされてしまう。
それどころかクリスティンが婚約者である事を、ひた隠しにしているという話を聞いて大きなショックを受けた。
そんな時、コーリーがとある子爵令嬢といつも一緒に居るのを見かけるようになった。
子ウサギのように可愛らしくてふわふわしていて、クリスティンとは違って細く小柄な令嬢だった。
そんな二人が一緒に居るところを度々目撃するようになった。
(……大丈夫、コーリーはわたくしを裏切ったりしないわ)
それでも優しいコーリーが自分の元に戻ってきてくれると信じていた。
二人で育んできた愛は偽りではなく本物だと。
もう少し経てばコーリーも落ち着いて、目を覚ましてくれると必死に言い聞かせていた。
けれど無情にもそんな日は来ることなく、二人の関係は呆気なく終わりを迎えたのだった。
「僕との婚約を破棄してくれ」
「え……?」
「僕はオーロラとの結婚を考えているんだ」
何も見ないようにしていたクリスティンに容赦ない現実が突き付けられる。
仲良さげに腕を組み、お互いを思い合うように目を合わせるコーリーとオーロラは、自分が隣に並ぶよりもずっとずっとお似合いに見えた。
「……何の、冗談ですか?」
「手続きはなるべく早めが良い。アインホルン辺境伯に追って伝えるから適当に誤魔化してくれ」
「い、嫌ですわ…!」
「クリスティンなら、僕の幸せを想ってくれるよね?」
「…っ!!」
「くれぐれも僕のせいにしないでくれよ?三年もクリスティンの婚約者で居てやったんだ……十分、良い夢を見れただろう?」
「コーリー様、やっぱりわたくしは納得出来ませんっ!!」
「……はぁ?」
「理由を、本当の理由を教えて下さい‥!」
「……」
「わたくしがいながら嘘ですよね?優しいコーリー様がそんな事するはずありません…!」
今でも優しく笑いかけるコーリーの顔が思い浮かぶ。
縋る思いで問いかける。
コーリーの隣にいるオーロラは、静かに涙を流すクリスティンを見ながら笑うのを我慢しているように見えた。
「僕も自分に自信がなかったから、君と一緒に居て楽だと思った時期もあったけど、今はもう違うんだ」
「……え?」
「僕は変わったんだ!!見た目も性格も、オーロラが僕を変えてくれた…!こんな可愛い彼女が側にいてくれれば僕は何だって出来る気がするよ」
「……!!」
「けれど君はいつまでもブクブク太り続けて……もう、見ていられないよ」
「…ぁ」
ダイエットをする度にリバウンドを繰り返して、現在過去最高体重である。
オーロラとクリスティンが並んで、どちらか選べと言われたら、間違いなく全員がオーロラを選ぶことだろう。
そんなコーリーの後ろから、イワン・エルプというエルプ侯爵家の令息がやってきて、コーリーの味方をするようにクリスティンを罵り始めたのだ。
唖然として動けないでいるクリスティンに「現実を教えてやるよ」といったイワンは、何人かの令息とクリスティンの腹の肉を摘んだり、「俺らの何倍あるんだよ」と言って嘲笑った。
「鏡を見て出直してこいよ?誰もお前となんて結婚したいなんて思うわけないだろ?この豚女…!!」
「っ、ひどい…!!」