①⑦ 鬱陶しい奴等
エンジェル達の元を離れて飲み物をもらう。
喉を潤しながら周囲の観察を続けていた。
(あの顔は……確かヴェーバー伯爵の次女でアリアと言ったかしら)
アリアは確かジョエルに想いを寄せて猛烈にアプローチしている事で有名である。
(だからクリスティンを目の敵にしている訳ね。ヴェーバー伯爵夫人もお母様にずっと嫌味を言ってるみたい……親子揃って腹立つわ)
嫌味というよりは会話の合間に嫌がらせを盛り込んでいるという感じか。
きっと母親経由でアリアもクリスティンを馬鹿にする事を当然と思っているのだろう。
社交界に出ていないアインホルン家にとっては意味の分からない会話でも、マーリナルト王国の貴族にとっては当たり前に知っている事だ。
これも社交界ならではの洗礼だろう。
(王都の情報を流してくれる駒が欲しいわね……情報は持っておいて損はない。アインホルン家も領地に引きこもってばかりではなく、たまには王都に出ることも必要だわ。その為には体型を整えることが先決ね)
ひたすら飲み物を飲みながら忙しく考え込んでいるが、他の令嬢達には寂しく映るのだろう。
クスクスと笑いながら此方を見ている令息や令嬢達。
(プンプンと目障りな小蝿共ね)
そろそろ鬱陶しいので追い払うかと、わざと目を合わせてからニッコリと笑って会釈する。
そうすれば気不味いからと顔を伏せる、関係ないと言わんばかりに視線を逸らす、そしてフッと此方を見下し笑みを浮かべたりと、反応が分かれる。
(髪色、目の色、ドレスの質、ホクロの位置……逃さないわよ!!フフッ)
周囲を威嚇しつつ、顔を覚えて、心のメモに刻み込んでいた時の事だった。
「おーい、久しぶりだな……クリスティン」
目の前の令息は見覚えのある顔だった。
そういえばクリスティンを執拗に虐げる男が一人いた。
それがエルプ侯爵の嫡男、イワン・エルプである。
クリスティンが婚約破棄される現場に居合わせて、煽っていた何とも趣味の悪いクソ野郎である。
(典型的な悪ガキタイプ、いやボス猿か…)
思い出してみると、クリスティンの婚約者もイワンやアリアと付き合いだしてから擦れていったのだ。
(乙女のお腹の肉を摘みやがって…!絶対許さないからな)
女を馬鹿にしていると怖い目にあうというところを、一度思い知らせてやらなければ。
「お久しぶりです、イワン様」
ニヤニヤとしながら此方を見ているイワン。
きっとイワンにとっては退屈な舞踏会で、クリスティンを弄る事は気軽なストレス発散なのだろう。
簡単に言えば優越を得る為のサンドバッグだ。
イワンは毎回といっていいほど、必ず絡んでくる。
去年まではイワンに何を言われても「わたくしはこんな風だから仕方ない」「話しかけてもらっただけで有難い」と、ヘラヘラと笑いながらイワンが満足して去るのをひたすら待っていたが、今年は一味も二味も違うのである。
「相変わらずだな、クリスティン!そんなに栄養を蓄えてどうするんだ?ブッ……出荷の時期はまだそうか?」
「言葉の意味が分からないのですが、もう一度言って頂けます?」
「いいや、何でもない…っ、ブハハッ」
「……」
「ああ、そうだ!最近のオススメの食べ物は何だ?よく食べるお前ならよく知ってるだろう?」
「最近のオススメはミーレ王国のシステとワイドマーン帝国のマーという果物も旬を迎えたのでオススメですわ」
「は……?何だそれ」
「あら、イワン様には少々難しかったかもしれません…!」
「…!?」
「他国の流行りの食べ物をイワン様が知るわけないですものね」
「なっ……!」




