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①③ 敵か味方か



「クリスティン、久しぶりだね」


「……ッ!?」



突然、声をかけられてクリスティンの体が跳ねる。



「ジョエル…!」


「少し変わった?前より綺麗になったような気がする」


「びっくりしたわ……驚かせないでよ」


「随分と忙しそうだね」


「えぇ…見ての通り、わたくしとても忙しいの」



ジョエル・ルカーナ


この国では珍しい銀に白が混じったような髪に、ダイアモンドのように輝く薄水色の瞳と雪のように白い肌。


令嬢達の間では「雪の王子様」と呼ばれる美男子。


ルカーナ公爵家に養子として引き取られた謎多き令息。

噂ではルカーナ公爵の隠し子だとか、何処かの王族の生き残りではないかと言われている。

いくら調べても詳細は不明だ。


クリスティンが七歳くらいの頃だろうか。

その頃にはもうジョエルとクリスティンが定期的にお茶をしている記憶がある。


そんなジョエルが、辺境の地までわざわざ足を運んでクリスティンに会いにくるのが、ずっと謎であった。

過去の舞踏会を思い出してみてもジョエルはこうしてクリスティンに必ず声を掛けていた。


(何の思惑があるのかしら…)


今回、顔を合わせるのは久しぶりであった。

ジョエルに会うのをずっと避けていたからだ。


理由は分からないが、思い出してみるとジョエルはクリスティンと会う際に美味しいお菓子を持ってきたり、カロリーが高そうな食べ物をお土産として持ってくる。


それを以前は素直に喜んでいたのだが、中身が変わった今では不気味な行動に思えたのだ。


(結局、ジョエルは何がしたかったのかしら)


嫌がらせで食べ物を与えているのかと思いきや、そんな様子はまったくない。

食べている様子を見ているのが好きなのか、将又ふくよかな女性が好きな性癖かと思いきや、どうやらそれも違う。


笑顔の裏に隠された感情を読み取る事が出来ずに戸惑っていた。

ジョエルの行動の本意が理解できないからだ。

故に、病気になってしまったので屋敷に来ないでと伝えていたのだ。


以前と変わらずに柔かな笑顔を浮かべたジョエルは嬉しそうな視線を送る。



「病気はどうかな…?やっぱり辛い?」


「……どうして?」


「とても変わったから…」



どうやらジョエルの"変わった"はクリスティンが痩せた事を指しているようだ。

周囲は誰も気付かないクリスティンの変化に即座に気付いた。

まさかタオルでのボリュームアップ作戦を見破るとは…。


(コイツ、侮れない)


そんなジョエルを警戒しつつ、負けじと笑顔を浮かべて答える。



「大丈夫よ!でも、完治するには暫くかかりそうなの」


「そんなに酷いの?」


「えぇ…でも数年後には良くなるってお医者様が。だからわたくしがいいというまでは屋敷にこないで下さいませ」


「え……?」



ジョエルの瞳が戸惑いを映すように揺れ動く。

そんな様子に目を見張る。


(もしかしてジョエルって……いや、まさか。そんな訳ないわ)



「ねぇ、クリスティン」


「……」


「クリスティン、大丈夫…?」


「えっ!?あぁ、ごめんなさい」



「何でもないわ」と言うと、ジョエルは安心したように息を吐き出した。



「もし……会ってもいい日があったら手紙をくれないか?」


「分かりました」


「君に会えないのは、とても寂しくて」


「でもジョエルなら他の御令嬢と…」


「……そうじゃないんだよ、クリスティン」



首を傾げると、ルカーナ公爵に呼ばれたジョエルは名残惜しそうに此方を見た。



「ごめん、行かなくちゃ…またね」



どこか悲しげな顔をしたジョエルが去っていくのを、悶々としながら見送ったのだった。



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