①② 観察中につき
会場に着くと、トビアスとエラは「挨拶をしてくるよ」と寄り添いながらトボトボと歩き出す。
その背中は小さく見えると言いたいところだが、かなり大きい。
クリスティンやオスカーと同じくらいの令嬢や令息は今か今かと舞踏会の始まりを待っていた。
気合の入ったドレス、髪型、化粧…そわそわと狙いを定める視線。
周囲を冷静に観察していると、国王や王妃が舞踏会の始まりを宣言する。
舐めるように会場の様子を見ていた。
(あれがお父様の学園時代の友人、マーリナルト王国の国王システィル……さすが王様って感じだけど少し様子がおかしいわね)
最近、アインホルン領が国に納める税が不自然に値上げされていると気付いた。
抗議と説明を求める手紙を送ったが、何故か返事は来ない。
押された判子は確かに国王のものだったのに…。
トビアスが「友のためならば仕方ない」と笑い飛ばしていたが妙にきな臭い。
(お父様がこんなにも信頼している国王が何の説明もなしにこんな事するかしら?)
腹立つ国王だったら、問い詰めてやろうと思っていたクリスティンだったが、どうやら何か事情があるようだ。
どこか顔色の悪い国王。
それに王妃もどこか浮かない表情だ。
二人共、目の下に深く刻まれている隈が気になるところである。
何か悩み事でもありそうだと、なるべく近付いて観察してみると国王の視線の先には、マーリナルト王国の宰相であるヨルダン。
そしてその隣に立っているのは、この国の王太子であるローレンスである。
(もしかして問題なのはあの宰相の方…?だったら今乗り込むのは得策では無さそうね)
顎に手を当てて考え込んでいた。
ヨルダンはトビアス程ではないけれど中々に立派な脂肪を纏っている。
そしてチラチラといやらしい視線で令嬢達を見ているではないか。
鼻の下も見事に伸びきっている。
もしかしてあの男のせいで、この国に何か良くないことが起こっているのだろうか。
(帰ったらお父様に相談してみましょう)
宰相が王子に耳打ちするとローレンスはその場所に向かい、ふんぞりかえって何か暴言を吐き散らしている。
それを見て頭を抱える国王と溜息を吐いて首を振る王妃。
(宰相と王子、あれが悩みの種かしら…?)
王子を傀儡にして国を乗っ取るつもりにしても、やけに堂々としている。
それが分かっていながらも何も言わない国王と王妃が気になるところだ。
確か二人の間にはローレンスしか子供が居ない。
(甘やかされた我儘王子様ってところかしら)
何か理由があるのだろうかと気になるところではあるが、今は国の事情よりもアインホルン家である。
取り敢えず馬鹿そうな王子は放っておいて…と、クリスティンは再び辺りを見回す。
エラは数人の御婦人達に囲まれて、苦笑いしながら顔を伏せている。
宝石の話は別として、辺境に住んでいるエラには新しく出来たカフェや体型に合わない流行りのドレスの話は無縁だ。
きっと会話の合間には、ネチョネチョとした嫌味を言われていることだろう。
トビアスも浮かない顔で、輪の中に入ろうと頑張っている。
しかしエラ同様、話の内容についていけないのだろう。
適当に相槌を打ってはいるが話は続かない。
そして汗臭さに耐えきれずに、すぐに人が離れていく。
オスカーは一人で立って食べ物を食べているが、少し離れた所に同じ歳くらいの令嬢と令息が集まっている。
そして一人で料理を口に放り込むオスカーを見て嘲笑っている。
あまり気にした素振りは見せてはいないが、居心地は良くないのか不機嫌そうだ。




