①① 燃え上がれ
悪魔の様な笑顔にトビアス、エラ、オスカーは震えるしか無かった。
クリスティンは屋敷の使用人を簡単に瞬時に取り込んだと思えば、圧倒的なカリスマ性と華麗なる手捌きでアインホルン家の何もかもを掌握していったのだ。
あっという間にアインホルン家の取り巻く環境はガラリと変わった。
周囲を固められていった為に逃げ場がなく、気付かないうちにみるみると体重が落ちていったのだった。
オスカー以外、クリスティンに反対していないのは、自分を変えたいと頭の片隅で望んでいたからだろう。
そして今も、まんまと転がされている。
おっとりして花のように優しかったクリスティンは機敏で快活な性格になり、色々と恐ろしい根回しをしている。
あまりにも正反対の人格になった為、何か悪いものでも食べたのではないかと思い、クリスティンを連れて診療所へと向かった。
しかし医者に診せたものの、診断は特に異常なし。
それにクリスティンとしての記憶もキチンと持っている。
これだけ変わったとしても昔の記憶があるとなると"クリスティン"だと納得せざるを得なかった。
「さて……お母様、お父様」
「何かしら?」
「??」
「今回、以前の服を着てもらったのには訳があります」
コルセットもまるで意味を成さないエラとクリスティンのドレス。
サイズが合っておらずブカブカの気持ち悪い状態が続いている。
しかし敢えて一年前のドレスを着るように伝えていた。
それはトビアスも同様だ。
オスカーはサイズが変わらないので、そのままである。
勿論、クリスティンも痩せる前の一年前のドレスを着ていた。
「体にコレを詰めて下さいませ」
「こ、これは…!?」
エラとトビアスに配ったものは……。
「タ、タオル!?」
「なぜこんなものを!!こんな大量のタオルをどうしろと言うんだ…」
「体に詰めるのです」
「え……!?」
「以前の体型に戻って下さいませ」
「ど、どうしてだ!?」
「折角、痩せた意味がないじゃないの…!」
「それでいいのですわ!!」
「「「……」」」
「ウフフ…むしろ、そうじゃなくちゃダメなの」
唖然としているアインホルン家を見て、ニタリと悪い顔で微笑んだ。
そしてサイズが大きな服の隙間にタオルを詰め込んで、一年前の体型に戻していく。
その為にオーバーサイズの燕尾服やドレスを着てきたのだ。
しかし顔や顎周りなどを誤魔化すのは限界がある。
なるべく髪型などで輪郭を隠してバレないように指示は出していた。
アインホルン家にとっては大きな体重と見た目の変化ではあるが、周囲は気付くことはないだろう。
「いざ、戦場へッ!!」
「「「………」」」
「楽しい楽しい舞踏会の始まりですわッ!!」
馬車が止まり、クリスティンの陽気な掛け声と共に会場へと足を進める。
タオルを詰め込んでいるので落ちないようにする為に、エラとトビアスの動きは、良い感じにぎこちない。
オスカーに至っては食べ物を口にしていないのでフラフラと幽霊のように左右に揺れ動いている。
城への階段をドシンドシンという音と共に登っていく。
タオルに包み込まれている為に体が熱くなり、汗をかいて匂いが広がり、更に厳しくなる周囲の目。
いつものようにコソコソとアインホルン家を馬鹿にする声。
そして体型を咎めてクスクスと嘲笑う声。
それを聞いて、目をカッと見開いた。
(ーーもっとよ!!もっと言いなさいっ!!)
アインホルン家の"痩せたい" "綺麗になりたい"という気持ちを焚き付ける為に、存分に役に立って貰わなければならない。




