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お姫様からの転落

リュイール王国のオリヴィエ侯爵家にはお姫様が住んでいた。

お姫様の名前はマリアンヌ。

彼女の持つ銀色の髪は上質な糸を、紫の瞳はまるで宝石を彷彿とさせる。

母譲りの美しい顔立ちで作られる笑顔はまるで天使のよう。見る者全てを幸せにするほどだ。

家族も、使用人も皆が彼女を大切にしていた。


ある日、マリアンヌの母が死ぬまでは。


母の死によりマリアンヌは生活は一変した。


お姫様のように大切にしてくれた父は母の死を嘆き悲しみ現実を見ないように領地にある家に寄り付かなくなり遠く離れた王城で仕事をこなす日々。

大切にしてくれた使用人達は家庭の事情で屋敷を去ってしまった。


残されたマリアンヌの元にやってきたのは父の後妻だと名乗る女性とその子供。

二人によってマリアンヌはお姫様から使用人に変えられてしまったのだ。

持っていたドレスやアクセサリーは後妻の子供に奪われ代わりに渡されたのはズタボロになった侍女服。部屋すら奪われた彼女が寝床として過ごすようになったのは厩だった。

毎日のように広い屋敷の掃除をさせられ大量の洗濯物を一人で洗い。仕事をこなしているのに碌にご飯を与えてもらえないマリアンヌはネズミ達と一緒に残飯を漁る日々を強いられる事となったのだ。

もちろん湯浴みもさせてもらえない。深夜屋敷の人間が寝静まった後に裏門近くにある井戸の水で身を清める。魔力がまともに使えていれば湯を沸かす事も出来たが魔法を学んだ事のない彼女は水で身を清めるしか選択肢がなかったのだ。

美しく輝いていた銀髪は次第に燻んだ灰色に変わり果て、水仕事によって手は赤切れだらけとなり、栄養不足によって痩せ細った体の至る所には後妻と子供によって振われた理不尽な暴力の痕が残っている。


マリアンヌは何度も嘆いた。

どうしてこうなってしまったのだと。

いっそ死んだ方がマシだと思った事も数え切れない。


そんな彼女の支えとなっていたのは亡き母が買ってくれた一冊の本だった。


題名は『灰かぶり姫』

義母と義姉によって理不尽な生活を強いられていた主人公の少女が動物や魔法使いに助けられ王子様と出会い結ばれる話。

希望も救済もないマリアンヌが自分と主人公の姿を重ねるのは当然の事だった。


「いつか私にも助けてくれる王子様が来てくれるわ」


マリアンヌは本を読むたびにそう願っていた。

本当は分かっているのだ。

物語は物語。現実は現実。全く異なるものだと分かっていてもマリアンヌは願い続けてしまうのだ。

それが彼女の生きている理由なのだから。


母の死から月日は流れ、マリアンヌは十五歳となった。


これから待ち受ける希望に満ち溢れた日々を知らない彼女は今日も使用人として生きていく──。

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