76話 よくある 魔王がいる世界について
ユウキ様の印象は、いつもニコニコとしていて誰にでも優しい人だと思う。
魔術も全属性を持ちながらも驕ることもない。気さくな人だと思う。
聖女様の質問にそう答えると、彼女は紅茶に口を一口飲む。
「しかし、ギルに剣術の模擬戦を申し込んだと聞きますが? 彼はかなりの腕前と報告を受けています。王宮騎士団長ですら敵わなかったと。そんな彼がどうしてギルに模擬戦を申し込んだのでしょう? 結果はギルが勝利したと聞いていますが、普通なら一平民に申し込んだりするでしょうか?」
西側のマードリック様に仕組まれたことを話す。
「つまり、ギルは西側の貴族たちに好かれていないということですか」
残念ながらと小さく頷く。僕でなく、ウィードルド民というのが気に食わないらしいと、入学式の自己紹介の話も付け加えた。
「どうしてユウキ様のことを?」
「今回はギルをここへ招いたのですが、当初は神に転生されたというユウキへ声をかける予定でした」
どうやら鋼以上の固さを持つドラゴンを倒したユウキ様に、ハイポーションの作成の望みを託していたようだ。
でも授業初日の魔力測定の結果に、ユウキ様の魔力硬度の低さに批判が上がったらしい。
「エルゼと助手の結果報告に目を通した時は落胆したものです。エルゼの報告書は『王都学園の合格規定にも達していない』と厳しいものでした」
そんなことを口外してもいいのだろうか? どう受け取ったらいいのかわからなくて笑って取り繕いをみせる。
「そんな時にあなたの報告書が目についたのです。誰もが、すでに卒業合格見込みという判定が出ていたのです」
「誰もが?」
「はい。元宮廷魔導士隊長のエルゼを含む、学園の全講師、寮監のアルギニオ、アーソニヤ、そのほかの学園の関係者たちです」
僕は目を瞬き、そんな人たちまでもが、と驚愕した。
寮に来てから生徒たちの行動はすべて見張られていると言う。時には王宮魔導士がこっそりと精査されていたらしい。
と、ふと制服配布の日のことを思い出した。
誰かに見られている。そう感じた時があったことを。
それからも何度か感じていたけれど、自分がウィードルド出身だということで醜名されているんだと思っていた。
「『お姉さま』と『長女様』と話し合いをしているその時に魔術陣の報告が届き、もう一度確認のために魔力硬度の測定を頼んだのです。その結果ギルが選ばれたのです」
もしかして十日ほど前に行われた魔力測定は……
聖女様の話に納得していると、対面にいる彼女が口篭るように下唇を噛んでいる。気まずそうになにか言いたげだ。
「聖女様?」
そう声をかけると、意を決したような視線を向けられた。
「これから話すことは私たち二人だけ秘匿としてもらいたいのですが、よろしいですか?」
緊張が走る。イタズラ心ではなく、まさかそのために側仕えを退室させたのだろうか。
閑散としている食堂をチラ見し、固唾を呑み頷く。
「ギルから見てユウキは本当に勇者だと思いますか?」
どういうこと? 驚きのあまり、深刻な聖女様に目が見開いてしまった。
勇者――勇敢なる者。領地を荒らし、人々に危害を加える『魔王』を倒す者。
勇者のことをよく知らない僕に聖女様が教えてくれた。
「あのう。その『魔王』ってなんですか? 『悪魔』とは違うのでしょうか?」
「私にもわかりません。ただ、ユウキがいた前の世界ではそういう生き物がいるようです」
「それでは、勇者であるユウキ様がこの世界にいるってことは、前の世界は……」
「いえ。彼の世界には多くの勇者がいるらしいのです。その多くの人が『魔王』と呼ばれる者と戦っているようです」
「では、ユウキ様は前の世界でその『魔王』に殺されてしまったと?」
「そうでもないようです。なんでも、鉄の乗り物に襲われたらしいです。私も王国の報告でしか知らないのですが」
鉄の乗り物? 馬車とかではなく? それは魔術で動かすのだろうか? かなりの魔力がいりそうだけれど――魔力が低いと言われている今のユウキ様からは、そんな世界が想像できない。
ふと、初日の授業で彼が不思議な鉄の武器を作っていたことを思い出した。それに、瞬間移動の呪文――そういえば――
「聖女様は、筋力増強させられる魔術に心当たりはないですか? 瞬間的に人の筋肉が強化されるみたいなものなんですが」
聖女様が僕の質問に難しい顔を見せつつ答えてくれる。
「筋力増強とは違いますが、魔力複合のことでしょうか?」
「魔力複合?」
聖女様がおもむろに頷く。
それは学校の後期で習う魔術陣とも重なる話だった。
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