6話 よくある 村のお手伝い
「本当にもう村には誰もいませんか?」
「ああ、大丈夫だ」
後ろを振り返ると村の人や農民たちが不思議そうに見ている。
なにを始めるんだ。ちらほらとそんな声が聞こえてくる。
まずは、まだ突き刺さっている背の高い柱のからだ。
村へ向き直った僕はそう腰を落とす。村の広さを把握し、まずは、そう右腕を大きく横に振った。
広範囲にわたってカラッと柱の先端の部分が切れて落ちていくと、背後から驚嘆の声が聞こえた。
もう一丁。今度は左腕を振る。
はい、はい、はい。どんどん腕を振って、突っ立っている柱の残骸を切っていく。草を刈るように。
一段落ついたところで、ふぅっと一息つく。
なんだ今のは――
すげえ。あれが魔術か。あんな魔術初めて見たぞ――
兄ちゃんすげえぞ――
湧き上がる歓声にびっくりして振り返ってみれば、賞賛している人たちで騒ぎが起こった。
ウィードルドでは、風の魔術で当たり前のように薪割をしていたので、こんなことで、と照れ臭い。
背中に声援を受けつつ、残りの柱をどんどん切っていく。そのたびに起こる歓声にすごくやり辛かった。
昼食をはさみ、打ち解けた村の人たちに倒れている柱や長い木材を見つけてもらい、好みの長さに切って回る。子供たちは勝手に切れていく木材が不思議なのか、僕のあとをついてきて楽しそうに喜んでいた。
村の人たちと仲が深まり作業を進めてきたけれど、あたりが暗くなってしまい、途中で中断してしまった。思っていたより時間がかかってしまった。
村の人たちが入り口に集まって解散しようとしている中、中途半端になってしまったことに僕は頭を下げた。
「すみません。これから王都へ行かなくてはならなくて」
「王都だって」
僕が魔術学校に向かう途中だったことを話すと、ざわざわとみんなが騒ぎ始める。
「姫様がここへ来たのって、確か討伐があった次の日だったよな」
「ああ、三日前だ」
集まっているみんながそう顔を見合わせ、神妙な表情を向けてきた。
話によると、どうやらここの領地のお姫様も今年、王都の学校へ入学するらしい。そのため後片付けが手伝えないと、ここへ見舞いと謝りに来たと言う。
お姫様という身分なのに重作業を手伝うつもりだったの? 瞼の上で、ムキムキのお姫様を想像してしまった。
「あんた間に合うのかい」
「馬を走らせれば、大丈夫だと」
「兄ちゃん、ついてきな」
最初に声をかけた恰幅のいい男性にそう言われ、馬を引きあとに続く。
「おい誰か、炊き込み班に握り飯を作るように言ってきてくれ」
そう声を上げると、数人の人たちが慌てて走り出す。
いや、そんないいです――そう断ろうとしたけれど、ここガーネシリア領は王国で一番広い領地らしく、隣が王都でも、ここから関所まで早馬でも一日近くかかるらしい。街でゆっくりとしている暇はないと言う。
「でも、指定の日まであと二日もあるし、大丈夫だと」
「なに言っているんだい。ギリギリに着いてどうするんだい。見た感じあんた手ぶらだし、準備する日を考えているのかい」
女性に言われ、そうだった! と返事に戸惑った。入寮までに商会へ行き、日常品を拾えないとダメなのだ。そう焦りが沸いてくる。
野営用の大きなテントが見えてくると、三人の村人が手を掲げながら駆け寄ってくる。手には差し入れを持って。
「できれば街に寄らず一気に王都を目指した方がいいだが」
無理だろう。みんなが口を揃えてそう言う。寝ずに馬を走らせるのは大変だし、馬も足を止めてしまうだろうと。
「できるだけ急いだほうがいい」
「ありがとうございます」
街で一泊する予定だった僕には貴重な情報だった。
持ってきてくれたおにぎりと水をリュックに詰め込み、礼を言う。
「礼を言うのはこっちだよ。ありがとうな。……足止めさせてすまなかった。帰りには寄ってくれよ。ちゃんと礼をするから」
僕は馬に跨り、みんなにもう一度頭を下げると馬を走らせた。
がんばれよ。背後の声援に手を振る。
野営のテントのそばを通ると、気を付けて、と村の人たちがみんな手を振ってくれた。
爪を切ったような月が空高く上ったころ、静まり返ったガーネシリア領の街を、馬を引いておにぎりをかじっていた。
ひと気がない道の端を、火の属性で出した炎の明かりを頼りにして。
ここを抜け、もう一走りすれば王都だ。
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