49話 よくある 契約
エルゼ女史がポーションと魔術陣の授業の前に紙を配り始める。
そこには契約書という文字が。
「二つの作製方法を誰にも話してはいけない。これは全王国の決まりとなっている。賛同できるもののみ授業に参加できる。参加の意思があるものは契約書に署名をして会議室に移動だ」
「これに賛成しなければ、どうなるんですか?」
手を挙げたのはユウキ様だ。
「今日から夏休みだ」
「今回を逃せば、二度と教えてもらえないんですか?」
「そういうことだ」
夏休みか。とユウキ様は悩んでいる。
「みんな、夏休みはどうするの?」
と、もう休みのことを考えている。貴族様たちはもちろん唖然としている。S組の卒業もそうだが、ある意味、今からが大事な授業なのだから。ポーションと魔術陣の作製方法を覚えるためにこの学園に通いに来たといっても過言ではないはず。
「あっそか。ボク、白魔術があるし、全属性だから魔術陣はいるのかなって」
あははは。と笑い出す。
「みんな参加するんだ。じゃボクも覚えようかな」
ユウキ様は貴族様たちに従順し署名し始めた。
「署名した者から提出し、会議室で待機だ」
「もし、契約を破るとどうなるんですか?」
「一生牢で暮らすことになる」
「うわー一生!」
ユウキ様はそう言って立ち上がり、契約書を提出する。
サインを済ませた僕は最後に立ち上がり、エルゼ女史のもとへ歩んだ。
ここからが正念場だ。村のみんなのために頑張らなくては。気合を入れ、教室を退室した。
会議室で、エルゼ女史の前に貴族様たちと並んで話を聞く。
「今からこの紙を三十枚ずつ配る」
それは手のひらほどの紙だ。しかも魔術陣が描かれている。
エルゼ女史は紙を一枚掲げると人差し指を添える。すると、魔術陣が光りだした。
「今から訓練場で、魔力を流し、紙をこのように仕上げてもらう。十枚仕上げることが出来れば、合格だ」
趣旨がわからない。みんなキョロキョロと顔を見合わせる。
「聞き間違いだったのでしょうか? 十枚魔力を注ぐだけでよろしいのでしょうか。三十枚ほど手元にあるのですが」
みんな、マルセーヌ様と同じことを思ったらしい。首を縦に頷いている。
「間違っていないぞ。十枚だ。因みに、ここからもう契約書の効果は発揮されている。出来た者は、注ぐ方法を口にしないように。とくに、領地同士の助言も禁止だ。問答無用で連行する」
貴族様たちも戸惑っている。紙を見つめ、ハテナと頭を悩ませる。
「以上。出来たものは職員室へ持ってくるように。あと、紙が無くなった者も同様に次の紙を取りに来るように。出来た者から帰ってよし。では、解散だ」
エルゼ女史が退室したあと、仰々しい説明を鼻で笑いだす貴族様たちが訓練所へ向かう。
貴族様がバカにしているのもわかる。今さら魔力を流すだけに、わざわざ紙を三十枚も必要なのだろうか? その意図がわからない。
訓練所で各々場所をとり、すぐさま作業に取り掛かる。
すると、あちらこちらで声が上がった。
マードリック様とメイスター様の紙が燃えているのだ。
ユーディー様の紙は土の球に飲み込まれている。
マルセーヌ様の紙は氷漬けに。
ユウキ様の紙にはなにも反応がない。
そして僕の紙には穴が開いてしまっているのだ。
「これ、なにか仕掛けているんじゃないのか」
「ありえますね。でなければ三十枚も……」
マードリック様とメイスター様が紙の裏表を調べ始める。
「おっかしいな。俺の紙だけなにも起こらない」
ユウキ様が顎に手を添え悩んでいる。
ユーディー様は魔術を解き、紙に着いた土を払っていた。
マルセーヌ様はジッと氷漬けの紙とにらめっこしている。
僕も穴の開いた紙を手に取り、首を傾げた。どうなっているんだろう。
「くそっ」
そう悪態をついてマードリック様とメイスター様が新しい紙を取りに立つ。
マルセーヌ様は鋭い目つきで失敗した三枚の紙を見つめている。
僕は十枚も紙に穴をあけてしまい、頭を抱えていた。
なぜ? 紙を手に魔術陣へ人差し指を添えてみる。
体の中にある魔力から小さく千切った魔力を指先へ流す。
パスッ。と穴が開いてしまう。はぁと何度目のため息だろう。どうしてこうなってしまうのか?
「あ!」
声を上げたのは、口元に手を当てているユーディー様だった。
なんと魔術陣が光っているのだ。
僕と同じようにマルセーヌ様もびっくりしている。
ユーディー様は次の紙を手にして指を添えると、また魔術陣が光っている。更に次も。どうやらコツを掴んだみたいだ。あっという間に十枚、魔術陣を光らせ、課題が終了してしまったのである。
ユーディー様が僕の方を見て、達成感に満ちた笑みを向けてきた。
おめでとうございます、と微笑みで返す。
満面の笑みでユーディー様は紙を持って訓練場を退室していった。
「どうしてユーディー様が!」
罵詈とも聞こえる口調で二人が新しい紙を持って帰ってきた。
どうやらユーディー様は合格したらしい。
僕も頑張らないと。
しかし、気持ちとは裏腹に三十枚、見事に穴を開けてしまい、職員室へ向かう。
「ギル。残っている者たちに昼休憩だと伝えてくれないか。午後は自由に始めてもいいぞ」
「わかりました」
もうそんな時間だったのか。
僕は訓練場に戻り、昼休憩を告げた。
参った。糸口がつかめない。
ぼやきながら寮へ戻る途中、朝会った騎士組の女子貴族様たちが寮の前にいることに気がついた。
「ギル様。今日はありがとうございます。二戦も勝つことが出来ました」
「あ、いえ。よかったです。おめでとうございます」
「陣形もうまく取れ、落ち着いて指揮もとることが出来ました」
「わたくしも体が軽くいつもより素早く動けましたわ。もしや魔術をかけていただけたのでしょうか」
「わたしも同じです。もしかしたらと」
「ちょっと待ってください! そんな魔術はありませんし、騎士学園まで効果範囲は超えていますから。あまりヘンな噂は立てないでください」
「ご謙遜を」
「いえ。本当です。一先ずお役に立てたようでよかったです」
そう挨拶をして、僕は寮の中へ逃げ込んだ。
騎士組の人たちはうまくいったようで羨ましい。誰か僕にも加護を与えてほしい。食堂に向かう途中、心からそう思った。
憂鬱な気分で食事をしていると、いつものようにリリーがやって来た。
にこにことなんだかご機嫌な様子で隣に腰かける。
「ご加護が効いたってみんな喜んでいたわ」
「リリーまで。そんなものないよ」
「あら。だって女子だけのグループが男子相手に二戦も勝てたのよ。快挙だわ」
「貴族様たちの普段の努力の成果だって」
「謙遜しなくても」
食している僕の背中を勢いよく叩き、ご満悦な表情を見せる。
「いつも、男子相手に気負い過ぎていたんじゃないのかな。それが、縋ったものに体がほぐれて実力が出せただけだと思うよ」
ふーん、でも、とリリーが僕の顔を覗き込み、
「そのほぐしたのがギルでしょう。だったら、やっぱりあなたのお陰じゃない。少しぐらい誇ってもいいと思うわ。で、なんでギルはそんなに暗い顔しているの?」
「今、僕らも試験みたいなものをしていて」
「ああ。ポーションと魔術陣ね」
「うわ。リリー」
僕は慌ててリリーの口を塞ぎ、しーっと立てた人差し指を添える。
突然のことに驚くリリーが僕の手を振り払う。
「なによ」
「ダメなんだって。それを話しているところを見つかると連行されるんだってば」
「バカね。作製方法を話したらダメということよ。それだけのこと。でなければ魔導士はみんな牢へ入っているわ」
そうなの? と僕はホッと息を吐く。
「魔術使いの鬼門ってやつね。大変らしいわよ」
「そうなんだ。全然うまくいかなくて」
「ふうん。でも、村のために頑張らないとダメなのでしょう」
ウィードルドか。便利な領地と違って、毎日大変な生活の風景が浮かぶ。
「そうだね」
「がんばって」
と、リリーが頭を撫でてくる。彼女のお母さんがよくそうしてくれたと言う。
少し元気をもらった気がした。
リリーと校舎前で別れ、訓練場へ戻る途中、マルセーヌ様と出会った。
「今から昼食ですか?」
「はい」
さすが、頑張り屋さんだと思う。
「ギル様も早く合格するといいですね」
「え? もしかして?」
「はい。私、合格いたしました」
「おめでとうございます」
「ありがとうございます」
喜色満面のマルセーヌ様。僕も負けていられない。
別れたあと、急いで訓練場に向かった。
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ここまで読み進めていただきありがとうございました。




