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3話  よくある 関所までの道のり

 草原の中に大木を見つけ、駆けていた馬の足を止めさせると地に降り立ち、背後を振り返ってみた。

 山の奥に見えるオレンジ色の空がほんのりと夜の色に染まろうとしている。

 丁度いい時間帯だ。今日はここで野宿することに決めた。手綱を引いて道を外れると大木に向かい手綱を括り付ける。

 辺りを見回してみた限り、目に見える範囲には生き物の姿はない。

 瞼を閉じ、探索魔術で生き物の気配を探してみることにする。頭の中では、湖に雫を落とし、水面に波紋を広げるような感じで足元へ魔力を流す。すると草原に魔力の波紋が広がっていく。

 小動物の気配を感じるけれど、こちらに敵意を向けている様子はない。獰猛な魔獣や猛獣がいる気配は感じない。

 目を開け、張り巡らせていた探索魔術を解く。そして馬の顔に両手を翳すと手のひらから飲ますための水を出した。水の属性の魔術だ。

「お疲れ。明日も頼むよ」

 水に舌を湿らせる馬へそう声をかける。しばらくして水分補給が終わったのか、馬は足元にある草を口でもそもそとし始めた。

 リュックを肩から下ろすと、山の麓で拾得しておいた枯れ木が幾らか顔を出していた。

 屈んで地に右手のひらを添える。すると土がグツグツと騒ぎだし、周りの草を飲み込んでいく。これは土の魔術の一つだ。四方三メートルほど草がなくなったのを見計らって手を放す。

 リュックから枯れ木を取り出し積み上げて右手を翳した。炎の球がゆっくりと枯れ木に火が灯す。

 よし。そう腰を下ろし、大木に背中を預け、リュックから干し肉を取り出した。

 いよいよ明日から街だ。昼過ぎには到着してなにか食べたい。どんな食べ物があるんだろう? 

 固い干し肉を咀嚼しながら街で食べるご飯にワクワクとした。その反面、一人で通る初めての関所に不安がよぎる。

 王都が営む学校の合格通知。これがあれば関税が免除されるらしいけど、心配でならない。もとより、村を出て街へ行くのは入学試験を含めて二回目。前回は付き添いの人がいたから自分はなにもせず、言われるがまま、あとをついて行っただけなのだ。

 関所でこの手紙を見せればいいと言っていたけれど、不安で仕方がない。

 こんなときに誰かと話をして気を紛らせたい、そう思っても、いるのは馬一頭。村のみんなの顔が浮かぶとちょっと寂しくなってきた。

 じいちゃんとばあちゃんが亡くなってから肉ばかり食べている僕の家へ、ルカが煮物やスープなどをよく差し入れてくれた。そして、そのままよく二人で食事をした。

 ルーは家の人とケンカすると泊まりに来て、愚痴をもらしていた。

 エコーはご飯どきになると必ず帰宅する家族想いだった。

 ザッハとはよく将来の夢を話した。

 もうホームシックになっているや――ぼりぼりと頭を掻き、焚火に枯れ木を足した。

 ポーションかぁ――ぼそりと独り言のように呟く。それは魔術使いが作れるものだと噂で耳にしていた。それは飲むと病気やケガが治る貴重な品物だ。学校へ通えば、その作製方法を教えてもらえるらしい。今まで薬草などで賄ってきた村では、重体患者を多く亡くしてきた。だから、なんとしても手に入れたい。捨て子だった僕をここまで育ててくれた村の人たちへの恩返しのために。そして、僕が立派な魔術使いになって村を繫栄させることは、じいちゃんやばあちゃんの夢でもあったのだから。

 弱気になるな! 一番星を見つけ、そう奮い立たせた。



 朝早く目が覚めると土の上で寝ていたせいか体中が痛い。

 ゆっくりと立ち上がると体についた土を払い、背伸びをして体をほぐす。雲の一つない空。今日もいい天気だ。そう深呼吸したあと、ちらりと尻目に映る土のコブに目をやる。

 昨夜、体感で夜中の三の刻ぐらいにオオカミの群れの襲撃があったのだ。横たわって眠っていると、物音や威圧に敏感な馬に起こされたのだった。

 村にいたときに狩りへ出ると獲物にはなかなか遭遇しないし、探し回っているときには逃げるクセに、お呼びでないときに現れるんだから――と、数匹と頭目らしいオオカミの首を風の魔術で斬り落としてやった。統率が取れなくなった群れは、覇気を放って追っ払ったのだった。そのときの死骸を埋めたコブにため息がでる。勿体ないなと。

 リュックを手に取って背負い、用心のために手のひらから水を出すと焚火の燃えカスにかける。

 大木に結んでいた手綱を解き、馬の首を撫で、今日もよろしく、と馬の背に飛び乗った。領地に向かって出発だ。朝日を横目に馬を走らせた。春風は少しひんやりとしているけれど気持ちいい。そう思わず口端が緩んだ。


 数時間経ったところで初めての分かれ道。東に曲り、出発して初めて人、行商人を見かけた。荷台をひく馬車がこっちに向かってきているのだ。砂埃がたたないように馬の速度を抑える。すれ違うと御者が手を上げてきたので、挨拶だと思い、同じように手を挙げて答えた。

 それから何人かの行商人と出会った。だんだんと町へ近づいている実感が沸いてくる。

 関所をうまく通れるだろうか。不安でお腹のあたりがキュッと締め付けられた。

 昼過ぎにと思っていたけれど領地の防護壁が見えてきたのは、想定していた時間を大きく過ぎていた。

 しかし領地の防護壁って大きい。村のものは対獣用なので、高さ二メートルほどの木造の杭を打ち込んでいるだけだった。

 それに比べて石造りの防護壁は、見上げていると首が痛くなりそうなほどに高い。人が登ることは不可能だ。しかも、領地をすべて囲んでいるというのだから。石造りで、どうやって建てられたのか不思議でならない。

 関所に並ぶ荷馬車の後ろで茫然と見上げていた。

活字だらけになってしまいました。


誤字脱字を発見した方がいましたら、報告していただけると幸いです。


ここまで目を通してくださり、ありがとうございました。

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