21話 よくある 魔術の使い方
「ギル。あなたは魔術使いだということをもっと自覚すべきよ」
商会を出ると振り返ってきたリリーが、真剣な眼差しでぴしゃりと言う。その意味が理解できなくてハテナとなってしまった。そんな姿を見てかリリーが大息をついたのだった。
「相手は平民でしょう。魔術使いを見て恐れるのは当たり前じゃない。門番のあの少年の態度から、あなたがウィードルド出身だから騎士学園の生徒になるものだと思って話しかけていたんでしょうから」
「魔術使いが怖い?」
「ええ。魔術使いってのは――」
「リリー様。話の内容はなんとなく理解できました。しかし人の多いここでは」
僕たちの会話をエザベルさんがそう遮る。すると、ハッとしたリリーが周りに目を配らせ、口を閉ざした。僕たちの間に広がる不穏な沈黙に胸が締め付けられる。なんだか嫌な感覚に見舞われた。
エザベルさんが石畳の歩道から一歩進むと手を挙げ、
「商店街はまた次回ですね。話の続きはこちらで」
と僕たちの前で一台の馬車が止まった。帽子を取った御者と挨拶を交わし、開かれたドアからリリーと僕が乗り込む。その間にエザベルさんは御者となにやらやり取りを済ませ、それぞれが座席に腰を下ろすと馬車がゆっくりと動き始めた。
「リリー様。話の続きの前にワタシから一つよろしいでしょうか」
そう言ってエザベルさんは、隣に座っているリリーが頷くのを確かめてから僕に話しかけてきた。
「先ほどの様子から察するに、ギル様は王国で魔術使いがどのような存在なのかご存じではないのでしょうか」
「扱い?」
キョトンとしている僕にエザベルさんがやはりと呟いた。
終戦前。領地の間で戦争が絶えなかった時代。魔術使いは貴重な存在だったと言う。
六歳ぐらいから魔術を使い始める子供でも、騎士を三人程度なら魔術で戦えるらしい。本格的に覚えれば騎士十五人、成人した魔術使いなら騎士二十人ほどの戦力だと言われているらしい。その話に僕は驚き、目を見張った。
「魔術で騎士を」
「そうです。騎士でも歯が立たないので、平民が魔術使いを恐れるのは当たり前のことなのです。魔術使いの機嫌を損ねると、人はケガでは終わらないのです」
「もちろん魔術規定というものがあって、ちゃんと法が定められているわよ。安易に人を魔術でケガさせたりすると罪に問われるわ」
「しかし終戦したとはいえ、他の領地の牽制のために、領地には魔術使いが多い方がいいのです。ゆえに牢に入ることは少なく、不正なやり取りが行われたりすることがあるのです。魔術使いはどこの領地でも優遇に扱わられるのです」
ちょっと待ってください、と僕は目の前に座っている二人の話を制した。
「魔術を人に向かって放つのですか? 言っている意味がわかりません」
じいちゃんとばあちゃんの教えと違う。魔力というのは神の眷属から授かった大切なものだ。それで人を傷つけるなんて。そう思わず声を荒らげてしまったことに、二人は顔を見合わせ、首を捻る。
「ギル。わたしたちこそ、あなたの言っている意味がわからないわ。ギルは一体なんのために魔術を使うの?」
「そんなの決まっているじゃないか。人を助けるためだよ。暖炉に火を灯したり、生活水を出したり、畑を活性化させたり、薪や木を切ったり」
「なに言っているの。そんなことすべて魔術陣でできるじゃない」
「ちょっと待ってくさいギル様。確かウィードルドには魔術使いはいないはずでは。あとで調べてみようと思っていたのですが……失礼ですがギル様のことを話していただけますか」
僕は何度も話してきた生い立ちを話した。
「そうでしたか。では訊ねますが、先ほど話していた魔術は、ギル様以外に一体誰が?」
「僕だけですが」
その返事にエザベルさんの顔つきが厳しいものに変わった。
「ギル様お訊ねいたします。あなたの属性は一体」
彼女の言葉に「そう言えば聞いていなかったわ」とリリーが僕に訊ねてくる。そんな中、エザベルさんは黙ったまままっすぐ僕を見つめている。彼女がなにを言いたいのか理解した。さっきの話で、僕が全属性を持っていることに気が付いたんだと。唇をかみしめうつむいた。
「ギル様もしや」
「はい」
「ちょっとなによ? どういう意味よ!」
見つめ合う僕たちにリリーが苛立ちを見せた。
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