16話 よくある ケープとマント
寮に戻ると支給された服装に早速着替えてみた。が、ダフィー商会で仕立ててくれたものとあまり変わり映えしない。違いを挙げるとすれば、生地の素材と胸にある刺繍、そして黒いマントがあるぐらいだ。しかも、ボタンを留めるとそのマントは身を隠すように包み込み、そして長い。すごく動きづらい。ごわごわとしていて、いざという時に対処しづらい。とくに、拳術の構えをした時は邪魔でしかない。
マントの着こなし間違っていないよね。金のボタンをかけながら不安になる。
自分の姿を鏡で見てみた。所々に金色の刺繍が施され、大層な恰好に馴染めない。
とりあえず昼食を。僕は以前着ていた服を丁寧に畳んで袋に詰めると、それを手に部屋を出ることにした。
そろりと扉を開けると廊下を覗き込む。誰もいないことを確認して扉を閉めた。
足早に歩みを進め階段を降りる途中、上ってくる人と出会ってしまった。相手は紙袋を持っていて、制服を着ていないことから今支給から帰って来たんだと察しできる。
僕はリリーに教わった通りに立ち止まると道を譲り、手を胸に当てる。狭いところでは身分の低い人が道を譲ると聞いていた。
すれ違う相手も同じように挨拶をしながら通りすぎる。
教わっていてよかった。リリーに感謝をし、ほっと息をつく。これでほかの人に出会っても大丈夫だ。そう足取りが軽くなった。
食堂に着くまでに数人の人と出会ったが何事もなくやり遂げられた。ここでは僕が一番身分は低いのだ。とりあえず道を譲って挨拶をしておけば、なにも問題はないだろう。
食堂に入ると僕はトレイを手に取って昼食をお願いした。
「ギル様、魔術学校だったのですね。てっきり騎士学園かと」
「はい。でもどうして僕が魔術学校だと分かったのですか」
トレイに食事を乗せてくれる女性に驚嘆した。彼女とは毎回顔を合わせているせいか、だいぶん仲良くなってきた。僕が村出身だということもあって警戒心が薄れたようだ。中でもこの人は笑顔で声をかけてくれる気さくな人だ。
「だってケープを纏っているじゃないですか。しかも黒の……」
「けえぷ?」
「はい。その羽織ですよ」
「これってマントじゃないんですか」
女性はクスクスと笑いながら教えてくれる。
マントは肩で止めてあるものを指し、騎士学園の人たちがつけるものらしい。
ちなみにケープには種類があり、黄色は土属性魔術、青は水属性魔術、赤は火属性の人たちが纏っているらしい。
「黒は特別クラス、S組の象徴ですよ。S組を無事に卒業できれば王族の御膝下の権利が与えられます。頑張ってくださいギル様」
「王族の! 卒業したら僕は実家に帰ります。とてもそんな大役」
「もったいないですよ」
僕は顔を引きつらせ、王都に残る意思はないことを話し、トレイを手に席へ着いた。
S組。なんだかとんでもないことになっているのでは。動き辛いケープを眺めてため息をつく。
「あ、いたわギル」
声をした方へ振り返ると、赤いマントを付けたリリーが手を挙げて近づいてきた。
紺色の上着にズボン。胸元には金色の刺繍が施されている。
「どうかしら」
小柄な体の腰に手を添え、ポーズを取るリリー。
「かっこいいよ。似合っているよ」
「それだけ?」
「え? どいうこと?」
リリーは唇を尖らせ、むすっとした。
「マント。赤マントなのよ」
リリーはちょっと怒ったような口ぶりで話す。
どうやら赤いマントは親衛隊組の象徴らしい。騎士組より試験が難関で格上だと説明してくれた。卒業後、王都の騎士団、もしくは王族の側付きも夢ではないらしい。自慢げに小柄な体で胸を張っている。
王家ということに興味がない僕には、どういう態度と返事をしたらいいのか、わからない。すごいね、とだけ言うとリリーはまた不機嫌になって僕の隣に腰かけた。
「そりゃギルと比べたら大したことはないかもしれないけれど、さ」
「僕と?」
「その黒のケープよ。学校や学園でもトップクラスなんだから」
「トップ?」
僕は驚きを見せるとリリーは呆れ顔になった。
「まあ、いいわ。それよりこれから時間はある?」
「時間? 街に出てダフィー商会へ行こうかと。着ていた服をどうしたらいいのか訊ねに行こうかと」
「ちょうどよかったわ。わたしも街へ誘いに来たの。そうとなれば早く昼食を済ませなさいよ」
「う、うん」
機嫌がよくなった彼女に頷き、食を始めた。
「リリーは昼食をとったの」
「ええ。部屋でとったわ」
そう言って頬杖を突くリリー。僕はちらりと食堂を見渡した。
「貴族様や裕福層の人たちって、みんな部屋で食べているの」
「そうね。側仕えたちが用意してくれたものを食するわ」
「そうなんだ。ここのご飯美味しいのに」
「まあ、いろいろとあるのよ」
リリーは目線を泳がせ、含みのあるもの言いをした。
貴族様たちのことだ。なにか訳があるのかな。平民の僕は深く関わらないでおいたほうがいいと思う。僕はフーンと返事して食を進めた。
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