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14話 よくある 組み分けと異世界転生者の魔術

 寮を出るとアルギニオさんが言っていた通り、盛装をまとった生徒たちが敷地の門からぞくぞくと寮の前を横切っていた。

 今日まで寮での生活は義務付けられていないため、昼過ぎに寮にやってきてお茶会を楽しみ、夕刻になると王都にある別邸へと帰っていたようだ。そのため、今日もほとんどの貴族様たちが別邸からやってきているらしい。

 僕は皆が進む右手の方へ向いてみた。五百メートルほど先に大きな校舎が見える。そしてその途中に人だかりができていた。部屋にあった学校の手引書には、昼までに制服を受け取ること、と書かれていただけで集合の予定はなかったはずだ。人が集まるところを通るのはちょっと嫌だな。そうため息ででる。

「ギルじゃない」

 その声に振り返れば、寮から出てきた数人の女子たちとリリーの姿があった。

 リリーはほかの女子たちと少し話し、

「それではリリー様、後程」

「ええ。後程」

 そうリリーたちは挨拶を交わし、貴族様たちは僕の前を通り過ぎていく。

「よかったのリリー」

「ええ。毎回勇者様の話ばかりで飽きていたところだから」

「勇者様?」

 僕はふと、ドラゴンに襲われたらしいガーネシリア領のことを思い出した。

「そういえば勇者様ってなんなの?」

「ギルも勇者様のこと? って、知らないのギル?」

「うん。王都で来る途中耳にしたんだけれど、聞きそびれちゃって」

 うんざりというような顔をしながらも、リリーが話してくれる。

「勇者様は、西の領地イストレアの空から現れたの。なんでもほかの世界から神様に転生されてきたらしいわ」

「神様? ほかの世界から?」

 そんな現実離れした話。王都の人たちはよく受けいれられるな、と思う。

「名前はユウキ様。今日まで王城にいて、本日からこの学園にやって来る予定よ。ほら、あそこにいるはずよ。あの大勢が集まっているのはみんな、ユウキ様を一目見ようと集まっているのよ」

 へぇー、と僕は人だかりへ目を向けた。

「勇者様ってどんな人なの? リリーは知っているの?」

「ええ。ユウキ様は一人で火、水、土、そして風と白。すべての魔術が使えるのよ」

「すべて? すべての魔術を使えるってことはすごいことなの?」

「当り前じゃない」

 呆れたような口調でリリーが言う。そして、なにやら思い出したように言葉を紡いだ。

「そっか。ウィードルドじゃ魔術使いはいないから……」

「え。まあそうなんだけれどね」

 実は自分も……そう心に秘め苦笑いした。

「魔術使いってのは大体、魔力を持つ一人に一つの属性が使えるのが普通なの。極稀に二つの属性を持つ人もいるけれど、さすがにそれ以上の人は聞いたことないわ」

 そう言うとリリーは学校へと歩き始めた。僕は話を聞きながらあとに続く。

「リリー。さっき言っていた白魔術って?」

「治癒の魔術よ」

「治癒?」

 そういえば、ビルディードさんから聞いたことがある。確か――

「そう。この世には、大聖堂の聖女様しか扱えないはずの魔術なの。でもユウキ様はその白の属性まで持っているの。だからそのことも含め、誰もが神様から転生されたという話を信じたのよ」

 複数の属性を持つのは稀。治癒の白魔術。僕の知らないことがまた増えた。特に魔術のこと。白魔術を除く四つの属性を持つ僕は――人だかりを眺めているリリーをちらりと見た。魔術のことは、今はまだ内緒にしておこう。騒がれて視線を集めそうだから。もう少し人に慣れてから話そう。

 僕は俯いて人だかりの横を歩み進んだ。勇者様のことは気になるけれど、あの人たちの中に割って入りこむ勇気がない。

「リリーは勇者様を見に行かなくていいの?」

「わたしはユウキ様と会ったことがあるから別に」

「勇者様と会ったの? どんな感じの人だった?」

 勇者様に興味を持っていた僕は、びっくりして興味津々で訊ねる。

「魔術や剣術は確かにすごいと思ったけれど……」

「けれど?」

「人としては……普通かな……」

 なんだか歯切れの悪いものの言いようが気になって、首を傾げた。神様に選ばれてやって来た勇者様なのに、リリーはあまり興味がないように見える。

 そうなんだ、と僕はそれ以上聞かないことにした。勇者様の話はうんざりとも言っていたし。

 でも、剣術もすごいのか。ちょっと気になった。

 しばらく沈黙が続くと、

「さて、わたしは何組かしら」

 掲示板の前に着くと、貼りだされているクラス分け表を眺めて、リリーが沈黙を破った。

 よし! とリリーは親衛隊組だったことに拳を固めて小声で喜んでいる。でも、貼りだされている表をいくら探しても僕の名前が見当たらない。そして、どうやらリリーもそのことに気がついたようだ。

「ギル? あなた合格通知は届いたのよね」

「届いたよ。寮にもちゃんと僕の部屋があったし」

 へんなことを言わないでほしい。ちゃんと合格したのだから。

「ギル。希望選択はどう返事したの」

「希望選択?」

「ええ。試験の時、騎士組か親衛隊組か選択聞かれたでしょう?」

 ん? と僕は首を傾げた。そんなこと聞かれた覚えがない。

「僕はただ得意魔術を聞かれただけで」

「え? 魔術?」

 リリーは目を丸くして僕の顔を見つめてくる。

「魔術ってどういうこと? だってギルは……」

「うん。僕は魔術の勉強をしにここへ来たんだよ」

 僕の言葉にリリーはぽかんと口を開けて茫然となっている。

「ちょっと待ってギル、あなた魔術が使えるの?」

 その質問は何度目だろう。やれやれという気分になる。僕は、関所で答えたように自分の身の上話をする。

「世話をしてくれていたじいちゃんとばあちゃんは僕が十四歳、二年前に亡くなったんだけど」

「そうなんだ。波乱万丈な人生を送ってきているのね」

「そうでもないよ。僕にとっては毎日幸せな時間だったよ」

 心からそう思っている。じいちゃんとばあちゃん、幼馴染と村の人たちに囲まれてとても恵まれていたと思っている。優しい人たちのこと思い浮かべたら笑顔になれるのだから。

「ここは騎士学園の掲示板よ。魔術学校の掲示板はあっち」

 そう言うリリーの指す少し離れた隣の掲示板へ向かった。

「あったよリリー。僕、S組だ。よかった。あれ、でもこのクラス六人しかいないよ」

「ちょっとどういうこと? S組ですって」

「どうしたの」

 驚くリリーが貼り紙と僕の顔を交互に見る。

「S組というのは卒業後、宮廷魔導士として働くことができる選ばれた人たちのクラスよ」

「きゅうてい?」

「ギル。あなた一体……」

「ごきげんよう、リリー様」

 僕たちの話に割って入ってきたのは、盛装な恰好をした女の人だった。

 物腰が柔らかく、すごく清楚な人だ。ゆるく癖のある水色の長い髪。大きい瞳に高い鼻。にっこりと笑う仕草に目を奪われそうになる。

「魔術学校にご興味がおありなのかしら」

「マ、マルセーヌ様。ご機嫌麗しく……」

 挨拶するリリーを見てびっくりした。彼女は手を胸に当て、体を折って挨拶しているのだ。察するにマルセーヌ様は身分が高いとわかる。リリーの緊張が僕にまで伝わってきた。

一言や感想、評価など少し頂けると嬉しいです。


誤字脱字見つけられた方、報告してもらえると変更いたします。


読みづらい箇所ありましたらコメントへお願いいたします。


ここまで読み進めていただきありがとうございます。

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