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12話 よくある 女の子との勝負

「わたしのわがままにお付き合い頂き、ありがとうございます。では、始めましょうか」

 そう言って構えるリリーさんが枝を持つ手を顔の前にすると、強い覇気を身体に感じた。その瞬間、僕は慌てて一歩、いや、更にもう一歩距離を取った。

 なんだ今の感覚!

 リリーさんが構えたその刹那、感じていた彼女の間合いが、突然前へ伸びてきたような不思議な気配がしたのだ。

 どうして? 

 リリーさんは小柄だから普通の人より間合いは狭いはずなのに、今は僕の間合いより少し広い。一体どうなっているんだ。

「わたしの構えを見て、間合いを取り直したのはギル様で三人目です。気づいて頂けるなんて、嬉しいですわ」

 ニヤリと上品な顔にそぐわない、不敵な笑みを浮かべる彼女。

 慌てて腰を落とし、手にしている枝の先を芝へ向けて構える。

「先ほどしていた体術と構えが違いますね」

「はい。さっきのは武術という拳術といって、剣を使わないときの構えなんです。そしてこれが、剣を手にしたときの僕の構えです」

「なるほど」

 お互い真剣に見つめ合う。僕は初めて見る構えに集中力を上げた。

 どうする? 

 初めての相手に少し取り過ぎた間合い。このままにらみ合っていても埒があかない。僕は少しずつ間合いを詰め始めることにした。

 お互い手にしているのは枯れ木の枝。負けたとしても死ぬわけじゃない。そうじりじりと進む。

 見てみたい。僕の知らない剣術。そう思いながらリリーさんの間合いのすぐそばまでやって来た。

 仕掛けてみるか! そう決心して一歩、間合いへ踏み込もうと足を上げたその刹那――

 え? 

 僕はずっとリリーさんを見ていた。集中は途切れていなかったはずだ。神経はリリーさんの動きに研ぎ澄ましていたはずだった。なのに、突然彼女は僕の目の前に、僕の間合いの中に飛び込んできているのだ。まるで地を滑って来たかのように。

 リリーさんは踏み込むような仕草や動きは見せていなかったのに。なのになぜ? 

 僕は体を折り、彼女の横一文字に斬りかかってくる攻撃をギリギリ躱せた。

 急いで次の斬りこみに備えて防御をとる。しかし彼女の腕の切り返しが早い。手にしている枝で弾き返すことで精一杯だ。

 戦い辛い。背の低い彼女の攻撃は上段ではなく、中段から下半身への攻撃が集中している。

 小柄な体格を生かした剣術だ。下に枝先を向けたまま防御ばかりしていると、攻撃の際、腕を振り上げる暇を与えてもらえない。攻撃を仕掛ける隙がない。自分の短所をうまく長所に変えている。接近戦だと応戦し辛い。おまけに振る腕がすごくしなやかで速い。自分の構えがどんどん崩れていく。じりじりと後ずさる。

 このままではまずい! 

 僕は一度態勢を整えるために、思い切って一歩大きく後ろへ飛んだ――が、彼女は僕の動きに合わせて懐に飛び込んできたのだ。

 まただ。彼女は踏み込んだときの仕草は見せなかったのだ。体勢を変えることなく、僕から離れない。一体どうやって移動しているんだ。まるで見えない糸が体に結ばれているようだ。

 リリーさんの斬撃の嵐が再び始まり、先ほどと形勢は変わらない。

 強い! リリーさんの攻撃の一つ一つに威力があるわけではない。でも、体格と鍛えられた柔らかい筋肉の動きに翻弄され、自分の剣術をさせてもらえない。

 集中しろ。打ち合いは集中を切らせた方が負けである。ばあちゃんの教えだ。

 防戦しながらリリーさんの動きから目を離さない。

 左右から下からと次々に襲いかかってくる攻撃。足を前後に開き、少し低い体勢を保っている構え。しなやかで速い腕の動きは速度が落ちない。どうあがこうと打ち込む隙を与えてもらえない。

 焦るな! そう集中力を更に高める。

 防戦しているのになぜ勢いが衰えないんだ? 普通なら、攻撃を弾かれると勢いが徐々に衰えるというのに――あれ? 体が前後に揺れている? 

 防戦に気を取られていて気づかなかった。僅かにリリーさんの体が前後に動いている。

 そうか。鞭のようにしなやかに打ち込める原点は、この前後に揺れている体の動きだ。そして、その体の動きを可能にしているのは開いている足の後ろ足だ。わずかに重心を乗せたり前へかがめたり。そしてそれは、腕へとしなるように力が流れているんだ。でもそれだけじゃない。もしかすると。

 僕はもう一度後ろへ大きく飛んでみた。すると彼女は僕の前へとくっついてくる。

 やっぱり。彼女の姿勢は変わらない。

 僕は着地するとすぐに両足を前後に開き体をかがめ、リリーさんより低い体勢を取った。

「え?」

 と驚く彼女の顔に、僕はにっこりと笑みを見せた。そして――

「集中を切らせたらダメですよ」

 一瞬攻撃に戸惑ったリリーさんの額に、木の枝をポンと当てた。

「どうして?」

「予備動作もなしに僕の前へ現れる、いや、飛びこめる種明かしは出来ませんが、リリーさんの不規則な攻撃の対処方法はわかりました。僕が弾いた攻撃に逆らわず、逆に利用して襲いかかっているのですね。だから腕を振る速度が落ちないのでは。さらに、自分で意図として攻撃をしてきているのではなく、相手の力を利用して攻撃をしてきているんですよね」

 僕はリリーさんの額から枝を離して立ち上がり、まだキョトンとしている彼女に説明を続けた。

「そして、腕の長さです。小柄な分、もちろん腕も人より短い。だから攻撃の切り返しが早い。小柄な体をさらに屈めているのは、それを隠すためと、防御を下へ向けさせるため。いやぁ、攻撃する機会がなかったですよ。しかも、低い相手との接近戦は応戦しづらいですね。それらも計算された構えですよね。でも、相手が同じ目線になってしまうと手元が見え、大振りになりがちな攻撃は封じ込められてしまいます」

 僕がそう言うと、リリーさんは諦めたように息を吐いて立ち上がり、両手のひらを上に向け肩をすぼめて降参の意を表した。

「すごいわ。普通なら、小さなわたしより低い体勢を取ろうなんて思わないのに。わたしの負けね」

「でも、もしこの短い枝でなく、剣で勝負していたら最初の一撃で僕が負けていましたよ。あの間合いの詰め方には驚きました。だから今回は引き分けということで。すごく楽しかったです。また手合わせしたいです」

「わたしもすごく楽しかったわ。ぜひ再戦したいわ」

 ぜひ、と僕は手を差し出すとリリーさんは「え?」とその手に驚きを見せた。

 僕は手合わせの楽しさのあまり、自分がウィードルド民だということをすっかり忘れていたのだ。相手は質のいい服を着ている貴族様かお嬢様だ。身分の違いに、慌てて手を引っ込めた。

「申し訳ございませんリリーさん。つい調子に乗ってしまいました」

 僕は頭を下げて詫びを入れると、

「リリーさんか、ふふっ」

 と微笑を耳にした。

「こちらこそ誤解させてしまったみたいでごめんなさい。わたしのことはリリーでいいわ。改めてよろしくね」

 そう言って彼女が手を差し出してくれる。僕はキョトンとして彼女を見つめた。

「あなたでしょう。ウィードルドから来たという人は。寮では結構噂になっているわ」

「え。は、はい」

 戸惑いながら言葉を返した。一体、どんな噂が流れているのだろう。訊ねるのは怖い。

「あのう。そろそろこの差し出した手をどうにかしてほしいのだけど」

「あ、申し訳ございません。改めて。ギルと申します」

「じゃ、これからギルと呼ばせてもらうわ。いいかしら」

「はい。リリーさん」

「リリーでいいわ。こうして契りを交わしたのですから」

「契り?」

「ええ。手を取り合うってことは、これからはお互いが同等の立場で接することを約束する儀式よ」

「……どうとう? ……ええぇぇぇ!」

 驚愕のあまり村出身の僕は手を解いてしまった。

バトルシーンというか手合わせのシーン。うまく伝わっているでしょうか? 気づいた点があれば、コメントを頂きたいです。

読みづらい点もあれば、よろしくお願いいたします。


ここまで読み進めていただきありがとうございます。


誤字脱字ありましたら報告していただけると幸いです。



続きが気になってくださった方。


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