光国の現状
ほんの数百メートル歩くと森の入口に着いて、マーリンは周辺を見廻して小さい声で話し始めた。
「実は俺は光国のスパイなんだ。」
スパイがスパイだと簡単に話した事にも驚いたが、マーリンが光国の住民だと言う事にも驚いた。
「俺達は人間より嗅覚が優れている。そして相手の魔力も見えるんだよ。」
「それで、血族だと分かったんですね」
「お前は驚かないのか?俺は光国の住民だぞ」
「さすがに驚きましたけど、何となく人間離れしていたので、それも有りかと」
「まったくお前は不思議な人間だな」
「でもスパイって?こんな所に何か探る事なんかあるんですか?」
「いやこの村には探る物なんて何もねえよ。俺が見張っているのはこの国の王のガタンだ」
「ガタン?」
「あいつは何かを隠している。あいつが光国王に会ってから、国王の様子がおかしいのだ」
アイナの兄弟が?
「どんな風におかしいのですか?」
「あれだけ、争いを好まなかった国王が突然一週間程前に光国を力で制圧したんだよ。それに先日の闇国の国王の殺害も、絶対におかしい」
「本当に光国の国王が殺したのですか?」
「光国の幹部から連絡が入った。間違いないそうだ」
「そうなんですか?国王ってどんな方なのですか?」
「王はただ一人、古来からの竜という種族で、ケタ違いの魔力を持っている。イトナ様に逆らう者はこの世の中に誰一人いない。」
アイナと同じなのかな?
竜って、この世界ではどんな動物を指すのだろう?
アイナはどんな役割をしているのか気になり質問する。
「国王の兄弟は、どんな地位なのですか?」
「なに?国王に兄弟はいないぞ」
?
「国王は特別な存在だ。前闇国王と同様に長い年月を生きて、この世界を守ってこられた。」
??
意味が分からなくなってきた。
アイナの事を聞きたいが、聞いてはいけない気がしてきた。
さっきの話だと、王がアイナなのかも知れない。
「国王は独身だと聞いていますが?」
「そうなんだ。それが俺達の悩みなのだ。光国を引き継ぐ者がいないのだ。ただ、俺は知っているのだけどな」
「何をですか?」
「誰にも言うなよ。実は王は城の近くの森で女性と生活しているのだ。それも竜の姿で生活しているのだ。」
やっぱりこの人はスパイに向いていない。
こんな重要な情報を身も知らない僕に話すのだから
でもこれで、アイナが光国の王だと確信した。
「でも何で争い事を嫌う王が、ここにきて戦争を起こそうとしているのですか?」
「それは、俺にも分からん。俺が思うにはこのサワ・タン国の国王が服従魔法で王を操っている気がしてならんのだ。」
「ガタンが?」
「それしか考えられない。二週間程前にガタンが現れてから王は変わってしまった気がすのだ」
二週間前と言ったら、クリカの両親が襲われた時か?
最初に抱いていたガタンの世界統一の噂が、もしかしたら本当なのかも知れないと感じる。
アイナが独断で世界を統一しようとする意味が分からない。
カードを使う時も店の事を気にしていた人物が、世界統一等と考える筈もないからだ。
それにしても、分からない事だらけだ。
「もしかしたら、俺は直接会っていないのだが、異世界人を子供にしたという噂がある。この情報は絶対に誰にも言うなよ、世界が驚愕してしまうからな」
えっ俺の事?
本当にこの人は何でも話してしまう。やっぱりスパイに向いていない。
「はあ」
「なんだ?お前は驚かないのか?」
「僕にはよく分かりません」
するとマーリンが笑いながら
「そうかそうか、そうだよな、分からないよな。まあ話はズレたが、血族を見破ったのはそういう事だ」
「それと、これからスワ町に行くのだろう?スワ町と繋がっている道路は危険だから気を付けろよ。光国から逃げ出し「ベアコン」がいるからな」
「ベアコン?」
「巨大な熊だ。完全に自分を見失っているから、誰とも構わず襲ってくる。まああれだけ血族がいるのだから大丈夫だと思うがな。お前は血族の姉ちゃん達の後ろに隠れていろよ」
「はい。そうします」
「そうかそうか分かったか。俺はスモーキー族の族長のコロンだ。もしまたここに来たら寄ってけよ」
「はい分かりました。」
僕とコロンは一旦店に帰り、コロンの奥さんから血液の飴の瓶を二つ受け取り、僕は店を出て宿泊所に戻った。




