リオキの変化
「お父様は母が亡くなってから食事も喉に通らず、母との思い出が詰まっているこの部屋に閉じこもり、やせ細ってしまったんです。」
と感情も無い口調でリオキが話した。
僕はマオキ元国王の姿を見て呆然とする。
それほど、妻を愛していたのか。
しかしどうしても納得がいかない
「マオキ様、僕はマコトと申します。奥様が亡くなって身も心も塞ぎ込みたくなる気持ちは分かります。でも、マオキ様と奥様が大事にしていたものまで、失うつもりですか?」
半分閉じている様に見えた目を大きく見開き
「どういう事だ!お前に何が分かる。」
と大きな声を発する。
「私には分かりません。マオキ様の奥様への愛の深さも、そして二人の愛の結晶である子供を放置出来るマオキ様の心も分かりません。」
その言葉に見開いた目が元に戻る。
「リオキの事は愛している。ただ、私はシオキの事を愛しすぎてしまったのかも知れない。大事な娘を想う気持ちすら、失われてしまったのだ」
「そうかもしれませんけど、子供を産んだ親の責任を放棄する事は許されない行為です。そんな事をして奥様が喜びますか!」
僕は強い口調で言い放った。
部屋が静まる。まるで時が止まっているようだ。
リオキが父親の所まで歩き、マオキの前で立ち止まる
「お父様、私は大丈夫よ。」
と感情を押し殺した様に伝える。
「私はお母様を愛するお父様の事が大好きです。私の事は心配しないで下さい。私はお父様が自分の力で立ち上がるまで、いつまでも待っています。お母様は亡くなってしまったけれど、いつか・・・いつかまた・・・・」
感情を表に出しそうも無いリオキの眼から涙が零れ落ち、口が思うように動かない。
椅子に座りながらマオキが両手を広げて、リオキに語り掛ける
「リオキ、おいで」
リオキはマオキの胸に顔を寄せる。
「なんだ?服がびしょ濡れだぞ。また濡れたまま拭かずにいたのか」
と優しく微笑む。
「ごめん・・・ごめんね、お父様」
マオキは泣きじゃくりながら、リオキを強く抱き寄せる
「ごめん、リオキ。
あの少年の言う通りだ。私は妻と同じくらいお前を愛している。それなのに、いつまでもお前に迷惑をかけた。」
「お父様、私もお母様もお父様の事も大好きです。お父様の気持ちも痛いほどよく分かります。」
「リオキ!」
二人は抱き合い、お互いを慰め合ったのであった。
そして、しばらくして、マオキが僕達に質問してきた
「ところで今日は私に何か用があったのではないのか?」
するとカシムが僕達の目的を話し始める。
マオキはガタン同様、疑問を口にする。
「タタン様と君では、年齢差があるようにみえるが?それに君は本当に異世界人なのか?」
「はい。僕は地球と言う星から来ました。僕の妻ももちろん地球人です。」
どうも年齢差がありすぎるので、信用していないようである。
「まあ、既に亡くなったタタン様の事を話すのは問題ないだろうが、異世界での生活については。ほとんど話さなかったから分からんのだよ。それに遺品と言っても、本人と分かる物があればよかったのだが、力になれず申し訳ない」
「いえ、こちらこそいきなり訪れてすいませんでした。」
タタン(妙子)のこの世界の様子を聞けなかったのは、残念ではなくホッとした気分であった。
もう、この星での妻の事を詮索するのは止めよう!
結局、この町では妻の居た痕跡は見つからなかった。
しかしそれは、妻と死別してからの生活に戻るだけである。
そう、何も変わらない。
マオキが笑顔で僕達に話し掛けてくる。
「一緒に食事でもどうだ?」
その言葉にリオキが一番驚いた。
「お父様、今なんて?」
「いや、久しぶりに食事でも一緒にどうだと思ってな」
「本当に?」
「あ~一緒に食べよう。」
リオキの顔の表情が、僅かに頬と口元が動いた。
笑ってる?
いくらか明るい声のトーンで
「皆に食事を作る様に言ってくる」
と言って、部屋を走って出て行った。




