た・たえこ・・・
いくら、僕の事を思い出せなくても、僕の妻が他の男性と恋に落ちて、結婚して子供を産んでいる。
分かってはいても・・・・・
クリカとコサイも、僕の失望する様子を見て近づいてきて励ましてくれたが、僕の耳には皆の声は届かず、ただ生ける屍の様に、何も考えず何も話す事なく食堂の椅子に腰を掛けていた。
どれくらい同じ態勢で椅子に座っていたのだろう
「マコト、部屋に行こう」
とモイナが僕に話し掛けてきた。
「うん」
何も話さず、ただモイナの後をついて行き、部屋に入った。
部屋に入ると中央にあるベッドに倒れ込む様に横になった。
何だろうこの心のモヤモヤは、いつまでも治まらない。
治まれ!
何か考えようとすると、妻が別の男性に笑顔を振りまく姿を想像してしまう。
何も考えたくない
僕は倒れ込んだまま身動きすら出来なかった。
ドスン!
僕の横にモイナも飛び込んできた。
「マコト、苦しいの?」
「・・・・」
「モイナも一緒に苦しんであげるね」
「・・・」
すると何を勘違いしたのか
「うっ苦しい」
と言いながら、ベッドでジタバタともがき始めた。
モイナなりに、考えた事だろうけど、一生懸命もがき苦しむモイナを見ていると、つい頬が緩んでいく。
僕はモイナの頭を撫でながら
「ありがとうモイナ、苦しくなくなったよ」
「じゃあ笑って」
僕は作り笑顔を作る。
「違うよ、こうやってやるんだよ」
と満面の笑みを浮かべた。
僕も無理やり大袈裟に笑顔を作ると、モイナが僕に抱きついてくる。
「うわっ」
そして耳元で
「モイナも一緒に笑うし、一緒に苦しむよ。いつもマコトと一緒だよ」
僕は抱きついているモイナを両手で包み込む。
「モイナありがとう」
僕は自然と涙が溢れる。
涙の量だけ心が浄化されていき、二人は抱き合ったまま眠りについた。
僕は妙子との結婚式の夢を見る。
タキシード姿の僕とウェディング姿の妙子とバージンロードを進んで行く。
そして、神父が結婚宣言を読み上げる
「健やかな時も病める時も、喜びの時も悲しみの時も、富める時も貧しい時も、これを愛し、これを敬い、これを慰め、これを助け、その命ある限り、真心を尽くすことを誓いますか?」
「はい、誓います。」
そしてエンゲージリングを妙子の指にはめるのだが、手が震えてなかなか入らない。
妙子の小さい声で
「頑張って」
僕は震えながらも指輪をはめ終る。
そして、震えた手で妙子のベールを上に持ち上げると、妙子が小さい声で僕の眼を見つめて
「愛してる」
とつぶやいた。
妙子の言葉に、それまで震えていた手も治まり
「僕も愛している」
と言って、誓いのキスを神様の前で捧げたのであった。
式が終わり、披露宴の準備に行く途中
「マコト、いつまでも一緒だよ。神様に誓ったんだから忘れないでよ」
と言って、妙子は控室に向かって歩いて行った。
「ねえマコト」
モイナの声で目が覚める。
「マコト、朝だよ」
モイナが僕を揺さぶっている。
寝ぼけて
「妙子?」
「私はモイナだよ」
モイナの声を聞いて我に返る
「あっごめん。おはよう」
すると
「お腹空いたよ、朝ごはん食べに行こうよ」
と僕の体を引っ張り、半身起き上がった。
トントン!
誰かがドアをノックする。
僕はベッドから降りて。ドアまで歩いて戸を開けると、クリカとコサイ、そしてカシムがドアの前に立っていた、
「どうしたの?みんな揃って?」
するとクリカが怒った表情に変わり
「早く食事を食べに行くわよ」
とだけ言って、1階の食堂に向かって歩き出して行った。
するとカシムが
「クリカちゃんはずーっとマコトの事を心配していたのよ。」
と小さい声で言うが、五感が発達しているクリカには充分に聞こえる声であり
「カシム!余計な事を言わないで頂戴!」
とカシムに注意した。
「はいはい、分かったわよ」
とカシムもクリカを追いかける。
今度はコサイが
「実はね。クリカも心配していたけど、昨日マコトが放心状態になっている時、カシムも物凄く心配していたのよ。今日の朝ごはんを誘ったのも、カシムの提案なのよ」
「そうだったんだ。みんなありがとう。僕なんかの事を心配してくれて嬉しいよ」
コサイは顔を赤らめて
「そ、そんなの当たり前よ。私達、仲間でしょ!」
みんなが僕の事を心配してくれている。
僕は皆の気持ちが本当に嬉しかった。




