ここは何処?
どれくらい経ったのだろう、暗闇から光が差し込み、その光が目を瞑って暗い世界を光で包んだ。
まぶしい!
僕は目を開ける。
すると太陽の光が目に入ってきて眩しい。いつの間にか仰向けに寝ていた事に気づく。
あれ?
車に乗っていたはずなのだが?
僕は立ち上がる。
痛みが無いのも不思議だったが、町を車で走っていた筈なのに、周りは道路では無く草原である。腰まで伸びた草が永遠に広がる。道路も無ければ家も無い。
わっ!
何で裸?服を着ておらず、素っ裸だ。
僕なりに事の状況を整理した。
「トラックにぶつけられた筈なのに、痛みもケガも無い。そして裸で草原の真ん中にいる。
これって、俺は死んだのかな?もしかして、ここが死後の世界なのかな?」
辺りを見て
「何か想像していた死後の世界と違うんだな。」
でもこの状況は、死んだ事は間違いなさそうだ。僕は死んだ事を理解した。
「そうか、退職日に死んだのか。」
ちょっと肩を落とす。
「まあ、しょうがないか。生きる目的も無くなったところだったからな。」
それにしても死後の世界って、何にも無いんだな。
これからどうしたらいいのかな?
神様っていないのか?
あれ?何だろう?
僕が寝ていた場所の横に、人とは思えない大きな足跡を見つけた。
その足跡は、草原の奥へと続いている。
体も動くし、ここにただ立ち尽くしていてもしょうがない。ちょっと足跡を追ってみようかな。
それにしても素っ裸で歩きまわるのも、いかがなものか?
ふと自分の体を見る。あれ?何で?
中年太りで下っ腹が出ていた筈なのに、出ていた下っ腹は引っ込んでおり、腹筋も割れている。まるで高校時代にボクシング部に入っていた時の体型みたいだった。
「そうか、死んだら生きていた時の一番絶好調だった体型に戻れるのか。」
と自分に都合の良いように解釈する。
それにしても・・・・
何て広い草原なんだ。
僕は歩き始めた。
第一歩を踏み出そうと、右足を前に出すと軸足の左足が地面から浮いた。慌てて右足を地面に着けようとしたが、右足と地面が磁石の同極の様に滑ってしまい、転倒する。
うわ!
しかし、体を支えようと両手を地面に着こうとした瞬間。一瞬、空中で止まった感覚になり、ゆっくりと地面についた。
何だ?死後の世界って重力が無いのかな?
でも無重力なら、今の一歩で上に跳んで行ってしまう筈だ。無重力というより、重力が少ないのか。
その後も普通に歩こうとしても、同じ様な感覚となり、上手く歩けない。
小刻みに足を前に出すとかろうじて前に進むが、物凄く歩きづらい。
軽く跳んで進んでみよう。
僕は3段跳びの様に、跳びながら前に進んでみる。
片足で跳ぶと、歩いた時と同じようにバランスを保つのが難しい。
それならば、両足で跳んでみよう
軽く1回跳ぶと、10mぐらい簡単に跳んでしまう。
地面に着く時に多少すべるが、何とか着地する事が出来た。
足跡を30分ほど跳びながら追いかけると、さっきいた場所は既に見えなくなってしまった。
あっ!
前方に少し上り坂が見える。丘の様になっていて、草は生えていない。
茶色の土と大きな岩が見えるが、その先は見えない。
「丘の先はどうなってるんだろう?」
「もしかして、丘の先は地獄だったりして」
恐る恐るその丘に向かって跳びながら向かった。
そして丘の手前まで来てが、ここで丘の頂上を目掛けて跳んだら、跳び越えてしまいそうだった。
草が生えていない場所は100mにも及ぶ。
しょうがない。小刻みに歩くしか手は無さそうだ。
時間を掛けて、小刻みに歩いて丘を登って行く。
そしてやっと丘の頂上に辿り着くと、丘の先は100mぐらいの崖になっていて、崖の下は森林が広がる。
「草原が終わって、次は森林かよ」
でもこのまま進んでもいいのだろうか?
本当に神様は来ないのかな?他に死んだ人でもいいから来ないかな?
神様が来なくても、他に死んだ人が来るだろうと、しばらく先に進むのを止めて、見渡しが良い丘の頂上で待つ事とした。
時が流れる
「あ〜まだかな?森林に行ってみようかな?」
これだけ重力が軽いと、100mの崖も飛べそうだ。でも、木で下が見えないので、さすがに飛び降りる勇気は無かった。
日が落ちて夕方になって行く。
気温はそんなに低くないのだが、崖の上のせいなのか風が強い
さ、寒い・・・
「死んだのに、また死んじゃうよ。」
しばらくして陽が沈んだ。
マジか・・・
辺りは真っ暗になる。
電気が無いと、こんなに暗いんだな。
しばらくすると夜の暗さにも慣れてきて、森林の異変に気づく。
あれ?
崖の下に広がる森林から煙が立ち昇る。
何で煙が?
誰かがあそこに住んでいるのか?
ここは死後の世界なのに・・・・
僕はこの状況を考える。
「もしかして、ここが死後の世界なのか?」
よく分からない。
さすがに死後の世界に対する知識は無い。天国や地獄があるとも限らない。
う~ん。さらに考える。
「やはりここが死後の世界なのか?」
(ぐう~)
お腹が鳴る。
死んだ筈なのに何でお腹が空くのだろう?
ほぼ一日何も食べていないせいか、お腹が空いてしょうがない。
崖の下の煙を見ながら、「もしかして、あの煙は食べ物を作っているのか?」
(ぐう~~)
また、お腹が鳴る。
崖の下を見て
「ここにいてもしょうがない、あそこに行ってみよう。」
月の灯りでかろうじて木は見えるが、隙間もなく生えている木の下は見えない。
さっきは、重力が軽いここならば飛んでも大丈夫なのではと思っていたが、いざ飛ぼうとすると足がすくむ。
「100mはあるよな?」
もしこの木が100mを超える長さの木だったら、地面まで200m。
「う~ん。今日は我慢して、明日、陽が登ってから崖を降りようかな?」
下に煙が登っていたのだから、人があそこにいるのは確実だ。
「でも裸なんだよな~。昼間に行くのはさすがに恥ずかしいなあ~」
と言って周りを見ても草が生えているだけで服になりそうなものが無い。
この状況と空腹から、やはり夜のうちに崖を降りる事を決心した。
「じゃあ飛んでみるか!まあ一度死んでいるのだから、もう死ぬことは無いだろう。」
ほっぺたを軽くつねる
「イタッ」
痛みは感じる。よからぬ事を考えて、また飛ぶのをためらってしまう。
(ぐう~~~)
またお腹が鳴った。
「もうヤケクソだ~」
僕は助走をつけて幅跳びをする様に、崖から飛び降りた。




