2話〜五人の召喚者とお約束〜
とりあえず俺は、目の前の男の手を取って立ち上がる。
「あ、ありがとうございます……」
お礼を言うのも忘れない。ぼっちと言えど礼儀は大事! 少しばかりどもったけどな。
「体調に問題は無いか? 気分は?」
「まぁ、何とか……?」
結構気にしてくれるのね。そういうの嫌いでないよ、気にされること自体あまりないけど。
よく周りを見ると、俺と同じで困惑してるような人が四人ほど。
その人達にもさっきの男が『ようこそ!』って声をかけてる。
うん、決めた。あのひとは『ようこそさん』って呼ぼう。
だってほかの四人にもそう声を掛けてるし。あながち間違ってないからな、俺が勝手につける分にはいいだろう。
「うん、これで終わりみたいだね。改めまして、ようこそ! アタラキシアへ! 僕はここのスイーパー達のリーダーをやっている――」
はい。初めまして。どうもです、ようこそさん。
「僕もこっちに召喚された身だ。君たちの先輩として教えられることがあると思ってる。よかったらなんでも聞いてくれ!」
おお、わざわざ教えてくれるなら聞いておこう。そしてもう一つ、気になってることもあるし。
「じゃあ……俺からいいっすかね?」
「よしいいぞ、どうしたんだい?」
俺は後ろに目線を向けながら尋ねた。そう、後ろにある紫色に輝いている門みたいなこれ。
「後ろのこいつは……なんですか?」
「そいつは召喚門。君たちをこの世界に召喚した装置さ!」
ふむ。まぁ大体予想通りっちゃ予想通りだな。
召喚された他の四人もそのゲートとやらを気にしているしな。
こいつから俺たちが出てきたって言われればまぁ多少は納得できる……か?
『これから出てきたんだ……』って隣にいる女子も独り言でてるしなぁ。
「分かった。じゃあ本題聞きます」
「今のが本題じゃなかったのかい!?」
いや聞きたいことならもっとあるし。と言うか本題に関係ありそうだから先に聞いたまでだ。
別にそこまで驚くことでなくね? ようこそさん驚きすぎ。
「単刀直入に聞きますけど、帰りたいから帰る方法、教えてくれません?」
「えっと……それは私も知りたいかな」
それまで隣で話を聞いていた女の子も話に加わってきた。肩までかかる栗毛の髪が緩いカーブを描いていて、柔らかそうな印象を受ける女の子だ。
人当たり良さそう。こういう子はモテそうだよねー。うん。
この質問をされたようこそさんさんは、あからさまに渋い顔になった。うん、まぁ何となく分かるよ。言いたいことは。
「言い難いんだが……」
うん。もう決まったようなもんだお約束。
「帰り方は……見つかってないんだ。だから、今は帰りようが無い……」
ですよねー。周りの四人もがっかりしてるなぁ。
それなら遠慮なく。俺はもうひとつのお約束を試すことにしよう!
「とりあえずこの門をもう一回、くぐってみますねー」
「「「「「え?」」」」」
ようこそさんとほかの四人の声がハモる。
そんな中でも、俺は迷いなくゲートに向かっていく。
紫の輝きに触れ、通り抜けると目の前の景色が……
変わらなかった。戻れないんだなぁ……
そう思っているとゲートの向こうから、
「まさか……戻った……?」
「え、でも帰れないんですよね?」
「そのはずだよ。僕だって色々帰る為の手段を探した時期があってね……」
なるほど。ようこそさんは帰る気だったんだな。
「まさかゲートにまた入れば帰れるかもって思ったことはあったけど、試す機会なんてないしね」
「あの人……帰れたのかな……?」
えっと、期待してるとこ悪いけど、ただ裏側にいるだけなんですよねー……
早いとこ顔だそう。帰れるって勘違いされても良くないし。
「いやー……帰れませんでしたわ!」
「「「うわぁぁぁ!!!!」」」
「え?」
なんでみんな驚いてるの? なんか不味かった?
自分の姿をよく見ると……ゲートから顔だけ出してる状態!
ちょっとしたホラー? 驚くわな、これは。
なんかすいませんでした。
帰ろうと思って帰れないのはお約束だと思うのです。