12話〜不穏の兆候〜
スクルドと『契約』してから二週間。
特にランクが変化することも無く、俺への周囲の扱いも変わっていなかった。
なんで特に変わらなかったのか。スクルドが言うにはこうだ。
『今のわたしは全ての力が戻っていないから変化が無いんでしょうね。力を取り戻すことが私の目的だから、ちゃんと手伝ってもらうわよ?』
との事でしたよ、はい。
その時に忠告もされましてね……まずは戦闘経験を増やすことと、武器の使い方とスキルの使い方を覚えなさいと。
その通りなのでまずはスロウ、ヘイストなどを実戦で使ってみることにした。今日はこれからようこそさんと哨戒活動をする事になっている。
「よし、今回は僕と二人組だ。よろしく頼んだ!」
「了解でーす……」
実をいえば俺のテンションはとてつもなく低い。なんでかって?一緒に組んでくれる人がいなかったんですよ……声を掛けた人全員に断られたからね。
ちなみに同期と言うべきか知らないが、天原さんやあやみん達と行くのはダメだとの事。必ず社の違う誰かと一緒行くんだと。
まぁ分かるよ?それはね。俺が気にしてんのはそこじゃない。気にしてんのは俺以外の四人はすんなり同行者が決まった点という事だよ!
要はランクで敬遠されたってことじゃねーか!俺だってなりたくて最低ランクじゃないのよ!?
それを見兼ねたようこそさんが『僕と行くかい?』と聞いてきたので即お願いした。
それが今に至る経緯である。
(やっぱり、面倒事を抱えたくないってことね……ここの奴らも元の世界の奴らも変わんないですな……)
そんなことを思いながらもついていく。ちょっとした林の中に入ろうとしたところでようこそさんが手で制止させてきた。
「モンスターを発見した。君も確認のために見てくれ」
声には出さず頷いて返事をする。示された先を見ると黒い体躯の蛇が六匹ほど。しかも意外と身体がデカい上に長い。
「ブラックスネークの群れだ……ここ最近は目撃情報も多かったし気にはしてたんだけど、数が多くなっているかもしれないな」
「個別の群れだったらその場で討伐すればいいのでは?」
ようこそさんが首を横に振る。
「巣を潰さないといけないよ。この世界のモンスターは総じて、繁殖力が強くてね。元から絶たないとダメなんだ。数が増えすぎなければそれでいいんだけどね」
「それまでに数を減らすのはダメなんですか?」
「自衛の為に奴らは群れの数を増やす。数によって守ろうとする。あの大きさのモンスターを増やされると危険度が増えるから……無闇に手は出さないでおこう」
そういう物なのか……そう考えていた時、スクルドの声が頭に響いた。
"『神眼』を発動させておきなさい。何かあった時対応しやすくなるから。あと多分だけど、一匹はこっちに気づいたんじゃない?"
(気づかれた……?)
『神眼』を発動し前方にいるブラックスネークを見る。なるほど、致死性は無いけど獲物の動きを鈍らせる毒は持ってるか……
六匹のうちこちらを見ている一匹見る。すると『神眼』で見ている表記で目のアイコンがある!
(目の表示……こいつがこっちに気づいてるやつか!)
"分かった?多分来るわよ、そいつ。アドバイスしてあげるから実践してみなさい。まずは『スロウ』からね"
その前にだ。ようこそさんに教えないと!
「ちょっといいですか?一匹だけこっちをずっと見てる奴がいるんですけど。気づかれてません?」
「……そうみたいだね。こういう時は仕方ないよ、討伐するとしようか」
するとようこそさんは短剣を取りだした。それと同時にブラックスネークもこちらに向かって移動し飛びかかってくる!
「こいつを倒すコツは!確実に攻撃をかわして!カウンターで仕留める!」
ようこそさんの動きをよく見ていてわかったが、かわす動作に無駄が無い。そしてブラックスネークの動きも直線的だ。
ようこそさんの短剣がブラックスネークの胴体を切り裂いた。血しぶきこそ出たものの、即座にフィグメントに変化する。
「慣れれば簡単だよ……さて、次は君の番だ」